第4話 カラシニコフ AKM

「アポロ殿下、御討ち死にー!」

「王国騎士団壊滅ー!」

伝令兵の悲鳴のような報告が城内に響く。


王城の外で魔王軍を迎え撃った騎士団は全滅したようだ。


「近衛は城門を死守しろ!」

「絶対に城内に魔物を入れるな!」

「弓兵は魔王軍を城門に近づけさせるな!」


王城を護る近衛の騎士や兵士達が城門の分厚い扉に丸太でつっかえ棒をして補強し、近づく魔物に城壁の上から矢を射る。


四百年前に魔王を倒した勇者が建国した『ヤマト王国』、小国ながらエルフやドワーフ、獣人などの亜人達を差別する事無く共存し、平和で豊かな国だった…数日前に魔王軍の圧倒的な大軍に攻囲されるまでは。


ドンッ ドンッ ドンッ


硬い樫材の分厚い板に鉄の枠で補強された頑丈な門扉に、何かを打ちつける重い音が城内に響く。


ミシッ  バキバキッ


何度かの殴打に耐えた門扉が、異音を上げながら裂けた。

裂け目から土気色の皮膚をした巨人がヌゥっと顔を出す。

人喰いの魔物、トロルだ。


「兄貴の仇ー!」


ザシュッ


城外でも戦っていたのか、全身に返り血を浴びた若武者が跳躍すると手にした日本刀に似たサーベルのような剣で巨人トロルの首を刎ねた。


「今のうちに門扉に補強を!」

首を失ったトロルが扉の向こう側に倒れ込む隙に、兵士たちが門扉の裂け目に木材やら重たい家具やらで穴を塞ぐ。


「くっそ、俺の刀が折れた!」

若武者の手にした日本刀モドキはトロルの太い首を切断したが、代償として刀身の先から三分の一程の処でぽっきり折れていた。


「姫、姫ー!」

じいや、俺を姫って呼ぶな!」

後ろから声をかけられた若武者が振り返る。

黒髪は男のように短く切られ、男装の上に甲冑を着込んでいるが、その顔は若い娘のモノだった、黒い瞳の目はやや三白眼で姫と呼ばれるには少々日焼けし過ぎてはいたが。


「コロナ王女、陛下がお呼びです」

コロナに爺やと呼ばれた男は見た目はまだ三十代半ばだ、ただ耳が長く先端が尖っている、長命種のエルフなのだろう、魔法使いなのかローブを着て手に杖を持っている。


「俺は今防戦で忙しい!」


「しかし、もうその剣では魔物は斬れますまい」


「ぬうっ」


「ここの守護はじいに任せて、早く王の間へ、王命です!」


「予備の刀と交換して来るだけだからな、すぐ戻るからな!」

コロナ王女はそう言い残すと城の奥へと駆け出した。


〜・〜・〜


「親父、このクソ忙しい時になんの用だ!」

怒鳴り込む勢いでコロナ王女は王の間へズカズカと入っていった。


「全く、年頃の乙女がクソなどと汚い言葉使いを…」

上等な絹の服を着、背には毛皮の縁の付いた赤いマント、頭には王冠を載せた金髪碧眼の初老の男性がコロナの乱暴な言葉使いを嘆く。


「なんでテメーは甲冑を着てないんだ!」

戦支度を全然していない父親国王にコロナが噛みつく。


「いや、わし、勇者の末裔と言っても剣とかまるでダメだし…」

国王が肩を竦める。

王家に伝わる勇者の血は代を重ねるごとに薄くなり、初代国王である勇者と同じ黒髪黒目は家族の中でコロナ一人だった。


「で、何の用だ!」

コロナは飄々とした父親の態度にイライラしながらも前線から自分を呼び戻した理由を聞く。


「お前はこの城を落ち逃びろ」

「はあっ?」

「勇者の血をここで絶やすわけにはいかん」

「いや、この城は魔王軍に十重二十重に包囲されてるんだぞ、どうやって落ちのびるんだよ!」


「タナカ殿、娘のコロナをお願いする」

父王が振り返った。


「な、何者だ、お前!」

見たことの無い服装の男が一人立っていた、まだ若いようだが、さっきまで気配を消していてコロナにそこに居る事に気付かせなかった、相当な手練れのようだ。


「田中一郎、ただの傭兵だ」


そう言うと男は手にしていた武器?を胸前に構えた。


「なっ!」


タタタン タタタン


王の間に侵入してきた二匹のオークが点射された7.62✕39mm弾に撃ち抜かれ血飛沫を上げて倒れる。


「な、なんだソレ?」

タナカが手にしたヘンテコな形をした魔法の杖?の先端が火を吹くと、オークの頭に穴が開いた。


「AKMだ」

「えーけーえむ?」

コロナが首を傾げる。


「ミハイル・カラシニコフが設計した世界で最も使われている突撃銃アサルトライフルだ」

タナカが両手に持った武器を得意気に見せる。


「えーと、何を言ってるのかわかんない…」

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