第6話 UH-1Bガンシップ

「くそー、戻せ、引き返せー!」

意識を取り戻したコロナ王女がベルUH-1Bヘリコプターの副操縦士席コパイロットシートで暴れている。


いや、そんなに暴れんなよ。

お前、一応お姫様だろ?


隣でガチャガチャやっているがどうやらお姫様はUH-1Bのシートの四点式のシートベルトの外し方がわからないらしい…


「親父は剣も魔法もダメダメで弱っちいんだ、俺が助けに行かなきゃ!」

口は悪いが親思いで心根の優しい娘だ、口は悪いがな!


「国王陛下は弱くなんかないぞ、立派な戦士だった…」


「でも親父は勇者ご先祖の血が薄くて!」


「陛下は城を枕に、魔王軍の四天王の一人とその軍勢と刺し違えて逝かれたよ」


「くっ…とにかく城に戻れよ!」

目に涙を浮かべた少女のお願いに答えてやりたいところだが…


「お前はアレを見捨てて王城の廃墟に戻るのか?」


UH-1Bイロコイの操縦席コックピットからは、王都から逃れた避難民の集団の街道上に長々と伸びた列とその後尾に追いつきつつある魔王軍の軍勢が見えた。


~・~・~


王都から落ち延びた民間人達、家財道具を積んだ荷車を曳く男、子供の手を引く女、杖をついた年寄り…そして、王都から脱出する民を護れと王城から追い出された騎士見習いの少年少女達。


「まずい、魔王軍に追いつかれる!」

「これ以上は避難民を急がせられないぞ!」

「くそっ、どうする?」


彼ら若者も避難民の護衛を口実に王城から逃がされたのだが…


「ここで踏み止まって食い止めるしかあるまい…」

ゴツいハンマーを手にした老齢のドワーフが狼狽えるばかりの若者達に向かって言う。


「なんとしても避難民を逃がす為の時を稼ぐのだ」

彼は騎士団付きの刀鍛冶だった為、騎士見習い達も彼の事を良く見知っていた。


若者達は少しだけ落ち着くと、その場で防戦の準備をし始める。

しかし、騎士見習いの少年少女は僅かに50騎ほど、対する魔王軍の軍勢は弱いゴブリンを主体とするとは言え千を超えている。


悲壮な覚悟で街道上に踏みとどまる騎士見習い達の耳に…


バタバタバタ

♪~


上空から聞きなれない羽根音と勇壮なが聴こえて来た。


~・~・~


『ミュージックスタート♪』

ベトナム戦当時のタイガーストライプの戦闘服を着た小さなサイズの“戦争の女神”が操縦席のスイッチの一つを弾く。

魔王軍との戦闘直前に突然コックピットの中に現れた30㎝程の大きさのは“女神の分体”だ。


UH-1Bの機体に設置されたスピーカーからワーグナーの『ワルキューレの騎行』が大音響で流れ出した。


「お前は地球の最新の戦争を勉強したって、映画を教材にしたんだろ!」

そう言いながら俺は魔王軍の集団のど真ん中にハイドラ70ロケット弾を数発ぶち込んだ。


炎と爆煙とゴブリン達の悲鳴と共にバラバラの肉片が辺りに飛び散る。


『きゃー♪やったー!』

ちっこい女神が俺のヘルメットの上ではしゃいでいる。

とりあえず俺の頭の上から降りろ!


UH-1Bガンシップの機体の左右に二丁ずつ合計四丁装備されたM-60C機関銃からバラ撒く7.62㎜NATO弾で地上を掃射してゴブリンどもをミンチにしつつ魔王軍の上空をフライパスした。


「おおっ、お前スゲーなっ!」

副操縦士席コパイロットシートからコロナ王女がキラキラした目で俺の事を見てくる。

おっ、どうした?

反応が可愛いな。


少し先でヘリを旋回させるともう一度、四丁の機銃で地上の魔王軍を攻撃する。


「あっ、あそこに魔王軍四天王のゴブリンキングの“アスモデウス”の旗が!」

弓矢だの魔法だので反撃して来たゴブリンアーチャーだのゴブリンシャーマンだのを機銃でミンチにしているとコロナがヘリの進行方向を指差した。


確かにゴブリンの集団の中に魔王軍四天王の旗らしきモノが見える。

小鬼ゴブリンなのに魔王軍四天王なのか?

所謂、四天王最弱ってヤツか?


ガンシップに搭載された二基の7連装70㎜ロケット弾ポッドから残弾を全て旗に目掛けて叩き込む。


ドーン


爆炎と共にやたらデカイゴブリンが宙を舞った、身長2mを超えてそうだな、何を食ったら小鬼ゴブリンがそんなにでかくなるんだ?


地面に叩きつけられたズタボロのゴブリンキングにとどめの機銃掃射を見舞ってやった。


~・~・~


眼下を王都からの避難民が国境くにざかいを目指してのろのろと進んで行く。


「アイツら大丈夫かなぁ…」

副操縦士席でそう呟くコロナの横顔は年相応に幼く見えた。

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