ポーカーフェイス・ジョーカー

「何してるの?」




 伊勢地の言葉に俺はなんと言えばよかったのだろうか。






 ソファーに押し倒されている俺がなにをいったところで 言い訳にすらならないだろうが。




「那珂ちゃん、そういうのは他所でやってくれない?」




「ごめんって、ちょっとからかいたくなっただけだよ」




 案外早くに那珂さんは意地悪したことを話す。




 一体子の人は何がしたいんだろう。




「別に詩織くんはどうなろうといいけど、この家でやられるのはちょっと」




 なんだか俺の扱いひどくない?




 そんなもんなの?




「で、なんで狛君はここにいるのかな?」




「あれ、僕説明しなかったっけ?」




「いや、詩織くん来るかもだから鍵開けてとしか言われなかったけど」




 いつも通り適当なやつだ。




「えーっと那珂さん」




 そう切り出し那珂さんに生徒会長からのメールについて説明する。




「そういうことか、私も教えられるほど詳しいわけじゃないからな」




「とりあえず一回やってみようよ」




 那珂さんの提案でとりあえず俺と伊勢地と那珂さんでルールの確認をしようということになった。




「そうそう、さっき百円均一でこんなの買ってきた」




 そういって伊勢地が買い物袋から小さいコインが大量に入った袋を出す。




「なにそれ?」




「チップ、トランプゲームのお供にって書いてあったから買ってきた」




 そんなもんまで売っているのか。




 リビングの机に、チップをばらまくトランプをシャッフルして手札が配られる。




 2枚の手札と場にある五枚のカードを組み合わせて強い役を作るルールだけ聞くと


とても単純そうだが。




「レイズ」




「フォールド」




 なんせ那珂さんが強すぎるのだ。




 レイズをして掛け金を増やしプレッシャーをかけ相手を降ろさせたりと心理戦をしてくる。




 そういうゲームなんだが。




 その次に伊勢地、俺といった強さだ。




 俺に関しては伊勢地にすらまともに勝てていない。




「これだと、明日の対戦は僕が出ることになりそうだね」




 さっき、会長からのメールで追加できた詳しいルールには各部活1人まで出場可能で、交代要員としてもうひとり見学という形で置いておくことが可能なようだ。






「そうだな、俺後ろでボスキャラ感出しながら腕でも組んで座っておくさ」




 オールインに失敗してゲームから降ろされるくらい下手な俺にできることといえばそのくらいだろう。




「部の総力を上げた戦いだね」




「二人しかいないからな」




 ほんと、とっても間抜けな部活だなあ。




「部員二人って何度聞いても面白いわね」




「那珂ちゃん、そうやって煽るのやめてもらえないかな」




「へへ、ごめんって」




 そう行って那珂さんは立ち上がり冷蔵庫の扉を開く。




 中からビールの缶を取り出し、栓を開ける。




 腰に手をあて口をつける、なんのためらいも感じさせないくらいの勢いでビールを飲むのだ。




「那珂ちゃん、やめなって未成年でしょ」




「成年だと思ってお酒を売る店が悪い」




「いや違うって」




 それだけいって伊勢地は文句を言うのをやめた。




 もしかして昨日の夜伊勢地はこの酒飲みにつきあわされ諦めているのかもしれない。




「狛くん、君は普段やっている感情を出すということをやめたら強くなれるよ」




「「誰だってそうでしょ」」




 伊勢地と俺の声が重なる、まさに息ぴったりというやつだ。




「二人息ピッタリ面白―い」




 ゲラゲラと笑いながらソファーに寝転びテレビを付ける。




 そこにいた那珂さんは散歩の途中にコンビニであった那珂さんとは全くの別人にみえた。




「じゃあ、明日は僕が出るということで決定でいいかな」




「そうするしかないだろ、俺が出たら一瞬でカモられる」




 威張れない自信で満ち溢れている自分に心のなかであざ笑いながら答える。




「そこまで今回の参加者は多くないみたいだし」




「そうなんだ、参加者は何人だって」




「一応12人らしいけど、果たして全員来るかどうかってところかな」




「メール見てない人もいそうだしな」




「そうそう、最初は6人でやってそのテーブルのうち上位2名が次の戦いに行けるみたい」




 なるほど、なるべく周りに潰し合ってもらって2位でもいいから次の戦いに行くほうが得策のように感じる。




「で、決勝戦では5人で戦うみたい」




「五人?」




「そう、五人各テーブルで勝ち残った二人と生徒会長」




 ああ、これはもう生徒会長がポーカーをやりたいがために始まったイベントだな。






 生徒会選挙のとき不信任に丸をつけておくべきだった。




「いったいあなた達の高校はどんなふうに管理されてるの、会長がアホだったら部活止まっちゃうじゃん」




 那珂さんの素朴な疑問に、僕らもうなずく。






「まあ、そんな事いいから那珂ちゃん服着て」

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