ソファーにはもう座れない
「あっ、詩織くんじゃーん」
はだけたパジャマから肩にかかる紐が薄っすらと見える。
なにかに目覚めてしまいそうな格好をしながら、伊勢地の家から那珂さんが出てきた。
「え? ここ伊勢地の家ですよね」
「そうだよー、間違ってないよ」
「ならなぜあなたがここに」
「遊びに来たんだよ、泊りがけで」
そう言い、あまりの薄着に身をよだたせ、寒いからと言って俺を引きずるように中に連れ込む。
「そこ、座っといて」
指を刺された先のサフォーには昨日俺が来たときのようにパジャマが散らかってるということがなくとてもきれいなソファーだった。
ソファーに腰掛けたとき、玄関からカコンッと行った金属音がする。
「狛君、君に聞きたいことがあるんだよ」
「何でしょう」
上のパジャマはもう服として機能していないくらいはだけている那珂さんは俺のソファーに一歩一歩着実に距離を詰めてくる。
俺は蛇に睨まれた蛙ということわざをいま身を持って体験している気がする。
那珂さんは、ソファーの腕おきと背もたれの部分に手をかける。
俺は那珂さんに囲まれるような形になったのだ。
「まずは、真夜中で二人コンビニでなにしてたの?」
「伊勢地が深夜散歩をしたいと行ったのでついていきました」
先輩は押し倒すかのように質問を投げかける。
その過程で、パジャマがはだけていっていることに気がついていないのか気にしていないのかわからないが。
「次、なんで連絡くれなかった?」
「そりゃ詳しく知らない人に連絡なんてしませんよ、普通は」
「そう、まあこれはいいわ」
そういうとソファーから離れキッチンに向かいグラスに水を注ぐ。
それを一気に飲み干すと、那珂さんは続ける。
「私ね、昨日いきなりここに遊びに来たの、なのになんで布団が2枚敷いてあったのかな?」
これはなんと答えるのが正しいのだろうか、ただやったことを離すのならば同じ部屋で伊勢地と寝てシャワー浴びてパンケーキを食べただけだ。
今この人にこの事を話しても誤解され追求されるだろう。
俺は無言を貫く、伊勢地が帰ってくるのを祈って。
「なに、無言を決め込んじゃってるのかな、狛君」
にこやかに問いかける那珂さん、口元では最大限の笑顔を示しているが目元は別だ、今すぐにでも俺を食い殺しそうな目をしている。
ふと思う、なぜこの人は伊勢地と俺について知りたがるのだろうか?
俺が、先輩の立場なら普通であれば「付き合ってるの~?」とか、「え?どこまで行ったの?」といった感じに追求していじるだろう。
もしかしたらこの人は伊勢地との距離を間違えているのではないのだろうか。
小さい頃遺書にいたときは妹のように接し、それも本当の姉妹とは違う形でただ手元においておきたいかわいい存在。
そのような感覚が未だ残っているのかもしれない。
それとも、昨日見たが、酒を飲んでいるのだろうか。
「那珂さん、1ついいですか?」
「なに、あなたは質問に答えればいいのよ」
「なぜ、伊勢地のことがそんなに気になるんですか?」
「それは…それは…」
言葉が出てこないようだ、そこで玄関の扉が音を立てる。
ガチャン、やっと伊勢地が帰ってきてくれた事情の説明は伊勢地に任せようそう思った。
「ねえ、鍵閉めてるの? 開けてよ」
たしかに伊勢地の声だ、那珂さんを見る。
「すぐ入ってくるわよ、一応鍵持ってるし」
「伊勢地から聞いてください」
「怖い思いさせてごめんね、ちょっとからかいたくなって」
本気で言っているんだろうか、軽くほほえみながら言葉を続ける。
「ほんとだよ、なんせ事情はもう聞いてるしね」
体から力が抜ける、それもそれで怖すぎるよ。
「でもね、このまま終わるのはつまらないじゃん、だからね」
そう言って、ほとんど下着須多田になった那珂さんはソファーにいる俺を押し倒し、覆いかぶさるように向かってくる。
俺の頭の中はこの人胸大きいじゃんという考えで一杯になり。
目は正面にある下着釘付けになっていた。
我ながらただただ情けないというべきか。
ガチャコン、おそらく伊勢地が鍵を使って扉を開けたのだろう。
俺の頭は、那珂さんを引っ剥がしキッチンなどに逃げ込むと行った考えは湧いてこなかった。
脳みそはいまジャンク店に売っているパソコンのどれよりもメモリが少ないだろうな。
そんなことを思うので限界だった。
「ねえ、いるんだったら開けてよ、詩織くん来てたんだ」
そう言って廊下を歩き、伊勢地がリビングに繋がる扉を開ける。
その目の前には、誤解しか生まない構図が広がっていたことだろう。
そして振り絞ったであろう伊勢地の疑問が飛ぶ。
「えっと、何してるの?」
俺明日学校に行けるかな。
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