伊勢地はどうやら何かがおかしい

 ブランコでさんざん遊びまくった俺たちは汗だくになり厚着なのも相まってとても気持ちの悪い感触に包まれていた。

 シャワーを浴びようという伊勢地の提案を寝ぼけながら受けたせいか気がつくと俺は伊勢地の家の前にいた。


「服散らばってるけど気にしないでー」



 そう言われて覚悟して入った伊勢地の部屋だが思った以上にきれいだった。


 確かにソファーに服が転がっているがそれもパジャマを脱いだレベルのものだ。


「きれいにしてるんだな」



「意外そうな顔をしないでもらいたいね」


「汗だくだよもう、僕はシャワーに入るよ後で君も入りな」



 え、それいいのと確認を取る前に伊勢地はソファーにあったパジャマを取り風呂場へと向かった。



 あいつの、異性へに対する危機感はどうも俺の知っている感覚とは全く別物のようだ。


 伊勢地が風呂に入っている間俺は何もすることがない。


 勝手に部屋を漁るのも悪いし自分自身そこまで落ちぶれている自覚はない。


 結果、ソファーに座りスマホをいじることしかできなかった。


 これだと、俺の家に来たときの伊勢地と一緒だな。




「お先~シャワーどうぞ、脱いだ服は洗濯機に放り込んでおいて、下着とかも」




 謎の配慮を受け、洗濯までしてくれるようだ。




 ただ、同級生の女子に下着を見られるというのはかなり抵抗がある。




 しかし、汗を流したいという欲望と伊勢地だからいいやといった適当な思いで風呂場に行った。




 伊勢地のマンションはこの田舎では比較的新しい部類になる。




 風呂はかなり広く、蛇口の部分もなんか高そうな感じがするものだった。




 シャワーの水の温度を調節している頃伊勢地の声がした。




「もう入った?」




「うん、シャワーありがとう」




「洗濯回すから入るね」




 扉が開く音がした。




「乾燥機付きだから結構すぐ乾くと思う」




「服は私のジャージ使って、あと下着なんだけど適当に買ってくるから」




 すごく伊勢地に悪い気がするがここまで来たら甘えよう。




「お金俺の財布から適当にとって持っていって」




「え、いいのに」




「いや、ここは払わせろレシートもセットでな」




 流石に金まで出してもらうわけにはいけない。




 頭を洗おうと思いシャンプーの棚を見る、流石に伊勢地と同じシャンプーは抵抗が


あると感じあわよくば伊勢地の父親のが残っていないかと思ったが甘かった。




 仕方なく、おそらく伊勢地が使っているであろうシャンプーの頭を押して洗剤を出す。




 伊勢地が帰ってきた気配がしないので出るわけにも行かず、普段使わないリンスにいつまでも洗剤がまとわりついているように錯覚し焦っていたとき伊勢地が帰ってきた。




「下着ここにおいておくね」




 それだけ行って伊勢地は洗面所から出ていった。




 それを確認して、風呂場からでる。




 正面の棚においてあったジャージを取り着替える。




 だいぶ足の部分が短いが文句はいってられない、なんせ俺と伊勢地は10センチ近くも身長差があるのだ。




「シャワーありがとう」




 ソファーに座りテレビを見ながら寛いでいる伊勢地に声をかける。




「いえいえ、てか足みじか」




「仕方ないだろ、お前のなんだから」




「女子のジャージに体を包まれているのはどんな気分かい」




「あんまりいい気分じゃないな、そういうお前もさっき俺の服着てたろ」




 人のこと言えるか。




「洗濯が乾くまで時間かかるから寝よう~」




「ああ、おやすみ」




 ああ、めっちゃ眠い。




 だからといって、ここで寝るわけにはいかない。




 俺の意識よ、頑張るんだ。




「何いってんだ、君も寝たほうがいいさ」




「いや流石にそういうわけにわ」




「何照れちゃってるの、かわいい~」




 こいつは適度に俺を煽らないと生きていけないのだろうか。




「じゃあ、ソファーでも借りるさ」




「いや、和室にもう布団敷いてるからそこで寝て」




 準備いいな、俺がシャワー浴びてる間に用意してたのか。




 ここまで準備されたら断るほうが悪いだろ。




 不思議と伊勢地の家は男友達の家に泊まりに行ってる感覚になる。




 ほんと不思議なやつだ。




「じゃあ、和室こっちだから」




 伊勢地がふすまを開ける、そこには布団が2つ並んでいた。




 フリーズする俺の思考。




「ほら何突っ立てるの寝るよ」




 同時に俺の腕を引っ張り布団に突っ込む。




 そして自分は何事もないように自分の布団に入っていった。




「おやすみ、詩織くん」




 もう、俺の脳は考えることをやめシャワーを浴びているときに限界に近かった睡魔は俺の意識を奥底に沈めていった。

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