飲酒ダメ絶対とは言い切れない

「なあ、伊勢地なんで散歩しようと思ったんだ、それもこんな深夜に」




 暗闇と電灯の光が自分の縄張りを主張しあっている空間の中、今まで適当に答えられていたことについてもう一度聞いて見る。




「いや~僕と詩織くんで一緒に夜遅くまでFPSしてた日あったじゃん、その時確か3時くらいまでやってたときに、ベランダから見た街がとっても魅力的だったんだ」




 つまり、なにかしたいことがあってやってるわけでなくただただ好奇心からか。




 なぜか知らないけれど、俺は少し安心した。




 どこを見ても暗闇の世界を二人で歩いてく、二人並んで歩いていく揺れる俺と伊勢地の手が少しあたっても気に留めることもなく。




 しばらく歩いただろうか、学校で起きた他愛もないことを話しながら歩いているうちにかなりの時間がたった、住宅街を抜ける。




「ねえ、寒いし喉が渇かないかい」




「そうだな、ずっと喋っていたしな」




「僕そこのコンビニでココアを買ってくるよ、じゃあ俺も行こうかな」




 少しではあるが眠気もしてきたので、コーヒを買おうかと俺もコンビニに向かう。




「あ、僕が買ってくるよ」




「いや別に俺も入って買うよ」




「いや~少し寒くてさ」




 それだったら俺もだといいそうになりやめる、言いにくいのだろうがおそらくこいつはトイレにでも行きたいんだろう。




 なんかこいつが女子らしさを出してくると変な感覚になるな。




「そうか、じゃあコーヒーの微糖で」




 それだけをお願いしてコンビニの壁にもたれかかる、ほんとに人がいない。




 もともと田舎でもあるせいか人っ子一人として通らない。




 伊勢地が出てくるのを待ってる間スマホに目を落とす。




「ねえ、君こんな時間に何してるの?」




 心臓が止まるかと思った、これは補導かなと思い顔を上に向ける。




 そこには幸いにも警察に姿はなかった。




 そこには整った顔立ちの美人な女性がいた。




「ちょっと散歩です」




 白のワンピースにカーディガンを羽織った正直季節外れとも言える格好だ。




「いけないこだー、深夜徘徊に可愛い女の子を連れ回して」




「違います、振り回されてるだけです」




「ほんとに?」




「ホントですよ、あなたは一体何なんですか」




 正体不明の謎の人物、俺の中ではただのやばいお姉さん。




「いやー、君の顔が気に入ったからつけてたの」




 なにそれ怖い、ただの変出者じゃん。




「なんでこんなことしてるのかな、ハハ」




 それ、俺のセリフです。




 そんな俺の気持ちなど全く気にせず謎のお姉さんは続ける。




「私今日振られちゃってさ、君なら慰めてくれるかなーって本能が」




「本能でつけてたって言い訳したいんですか」




「君鈍いね、私は多分君をナンパしてるんだよ」




 そう言いながらお姉さん俺の真正面にたち俺に覆いかぶさる。




 深夜という空間と睡魔に押され俺にはねのけたり逃げるという選択肢は不思議となかった。




 この、見知らぬ女の人に壁ドンされているという状況に。




 それだけではない、体を俺にあずけるように倒れてくる、胸が当たる・・・・・・




「あの、やめてください」




 正直怖い、深夜徘徊などするのではなかったという後悔の念が押し寄せる。




「え、詩織くんその人だれ?」




 思わぬとこからの助け舟、今この瞬間ほど伊勢地に感謝したことはないだろう。




「なんか、変な人に絡まれちゃって」




「あ、菜々ちゃんだー」




「え、なんで僕の名前を」




「今は僕って言ってるんだ、前はナナって言ってたのにね」




 まさか伊勢地の知り合いか?




 伊勢地の顔は驚きともなんとも言えない顔になっていた。




「ねえ、君の彼氏貰って言ってもいいかな?」




「ダメです、僕の部員だから」




 その言葉を聞いた女性はこっちを向いて大きなため息をつく、かすかなお酒の香りがした。




「まあ、また会おう私の名前覚えておいてよ、私は那珂獅噛なかしかみ覚えておいてね」




 そういって俺の後ろの壁から手をどける。




 そしてかばんからメモ帳を取り出し何かを書く、そして伊勢地には聞こえないよう耳元でささやく。




「菜々ちゃんのこと聞きたかったり、私に興味が湧いたら連絡してね、私は後者のほうが嬉しいけど」




 そう言って紙切れを渡す。




「じゃ、お二人で楽しんで、狛詩織こましおりくん」




 なんで名前を知っているんだ、あの人は。




 そんな疑問を俺に残し軽快なステップで去っていった。




「なあ、伊勢地あれお前の知り合い?」




「名前なんて言ってた?」




「那珂獅噛とかいってたような」




「やっぱりか、近所に住んでた知り合い」




「よく遊んで貰ってたけど引っ越しちゃって」




「そうなんだ、どうりで名前も知っていたんだな」




「うん、結構仲良かったし」




 あれ、でもどうして俺の名前を知っているんだ?




 伊勢地の話し方から前々から連絡を取り合っていたようには見えなかったから俺のことを知るすべはないはずなのに。




「はい、コーヒー」




 伊勢地からコーヒーの入った紙コップを受け取る。




「缶コーヒーで良かったのに」




「いえいえ、私のワガママに付き合ってもらったのでこんくらい奢らせてよ」




「ごちそうさま」




「からあげもあるぞ」




 いつにもなく気が利く伊勢地であった。




「さっきの那珂さんお酒飲んでたよな」




 さっきの胸の感触が未だに剥がれない。




 きっとあの人は酔っていたんだろう。




「え?あの人私達と学年で言えば3つ差のはずだけど」




「えっとつまり、大学一年生ってこと?」




 アウトだな、お酒と煙草は二十歳からどこでも聞くフレーズだ。




 いや、相手が酔っていたから連絡先をもらえたと考えればこれは儲けもんだろ、嬉しい部分はそこだけではないのだが。




 今の俺には、未成年飲酒ダメゼッタイと言える自信はないな。






「あっ、詩織くん僕トイレ行きたかったわけじゃないからね」




 俺の配慮を返せ、おそらく伊勢地は俺もコンビニに入ったら意地でもコーヒー代を払おうとするだろうから外で待たせたわけだな。




 そうして、俺はさっき感じた那珂さんへの恐怖をもう忘れかけていることに笑うのであった。




フィクションです、未成年の飲酒を推進するものではありません。


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