深夜の散歩と事件

 深夜3時に公園に集合と言われ肌寒いや風がふくなか、公園のベンチに腰掛け最近ようやく自動販売機に顔を出し始めた『あったか~い』コーヒーを啜っていた。




 時刻は2時45分我ながらよくこの時間に起きれたと思う。




 伊勢地と別れたあと夕食を取り8時少し前には布団に入っていた。




 仮にも女子である伊勢地をこんな深夜に一人で待たせるのは危険かと思い、俺の良心が早めに集合場所に行くことを促した。




 そんなことになる前に止めろという意見もどこかしらにあるかもしれないが、伊勢地は暴走列車だ、燃料がなくなるまで走らせたほうがこっちにとっても安全なのだ。




 集合場所に設定されたこの公園は俺と伊勢地が出会った公園だ


 その時から伊勢地は良くも悪くも、大部分は悪い方向にぶっ飛んでた。




 初めて出逢ったときは確か中学二年の秋か冬、友だちに誘われてこの公園に設置されているバスケットコートで遊んでいた。




 ベンチに座っている伊勢地を見たとき俺は素直に可愛い子だなと思った。




 今もなおそうだが伊勢地は黙っていればそれなりにモテるのだ。




 友達が帰り、俺も帰ろうとした頃伊勢地はいきなりベンチから立ち上がりシュートを打って遊んでた俺のもとにやってきて




「ねえねえ、僕と1対1をしない?」




 そう話しかけてきた、明らか動くのに不向きなスカートでだ。




 その時俺が驚いたのはそこではなかった、この世にボクっ娘というものが存在していたのかという事に驚いていた。




 1対1は部活には入っていないものの小学生の頃から友だちに誘われてバスケをやっていた俺に伊勢地が勝てるわけもなく圧勝した。




 ただ、奴はトラベリングも知らないくせに勝つつもりで勝負を何度も仕掛けてくる。




 その時にはすでに俺の中では変なやつとしてカテゴリングしていた。


 




 そんな思い出にふけてるうちに2時はもう終わりに差し掛かり3時になろうとしていた。




 3時になった瞬間後ろから伊勢地が現れる。




「じゃ~ん、菜々参上」




「時間ぴったりだな」




「このためにさっきから後ろで君がコーヒーを飲んでいる姿を眺めてた」




「なんだよ、来てたんなら声かけろよ」




「3時集合だから僕は3時に現れるのさ、そして君よコーヒーは余っているかい?有るのなら寄越せ」




「いいけど、俺口つけたぞ」




「いいから寄越せ」




 そう言って間接キスなどと言ったことは無視しおれのなけなしのコーヒーを飲み干した。




 普通もう少し気にするだろう。




「いや~本当に寒い10月とは思えない寒さだ」




 本当に寒いのか、頬が真っ赤になり耳までも赤くなっていた。




「あ、そうだお前服どうするんだ」




「まさか君はこんな寒いところでか弱い乙女を下着姿にしてその上から自分の服を着


せようというのかい、詩織くん恐ろしい子」


 そのいいようだと俺はもう犯罪者だ。




「じゃあ、どこで着替えるんだよ、そしてなんでお前はわざわざスカートで来るジーンズとか持ってないのかよ」




「えーっとそれが、ここ数日洗濯というものをしていなかったもので」




 もしかして俺に服を貸せと言ったのも動きやすい服がなかったからなのかもしれない。




 こいつの家には行きたくないものだ、おそらく大量の洗濯物と空き缶で埋め尽くされていることだろう。




「差し出がましいようですが、君の家で着替えてもいいかな」




 漫画ならば【ニコッ】というテロップが出るほどの満面の笑みで俺の方を見てきた。




「いいけど騒ぐなよ」




 正直想定できた範疇だ、でもこいつ一応女なんだよな。




 俺がついたため息は白くなって消えていった。






「おっ邪魔しまーす」




 軽快なステップで我が家に入ってきた伊勢地はあたかもこの家の住人ですと言わんばかりにソファーに座りくつろぎ始めた。




「散歩行くんじゃなかったのかよ」




「いくさ、君の服待ちってところだね」




 俺は自室に戻り伊勢地用の服を探す、身長は俺より10センチ以上小さいはずだ。




 クローゼットを漁るのやめ、もう小さくなった服などをまとめいているダンボールを開ける。




 確か奴はパーカーを希望してたっけ。




 そんなことを思い出し、適当なパーカーを見つけ伊勢地のいるリビングに戻る。




「遅いぞ詩織クーン」




「はい、これ貸すよ」




「あざーす」




「着替えは向こうにある洗面所で」




 洗面所の場所を教えるため伊勢地の方を向くと、奴はすでに上の服を脱ぎにかかっていた。




 あらわになる伊勢地の肌に気を引かれ一瞬時間が止まったかのように感じた。




「うにゃ?」




 伊勢地の間抜けな声のおかげで理性をなんとか取り戻し背中を向けて素早くリビングからでる。




「お前、何してるんだよ」




「なしにてるって着替えだけど?」




 もうダメだこいつ。




「あっ」




 そしてようやく自体を把握したかのように焦った口調で喋りだす。




「え、えーとこれは普段一人だから着替えるのに気を使わないといいますか、詩織くんが空気のような存在だったから、えーといや悪口じゃないよ、うんやめて」




 顔は見えていないが今ごろ顔は真っ赤になっていることだろう。






 そしてしばらくたち中から呼びかけられた。




「着替え終わりました」




 そうして中にはいる、伊勢地の着ている服はもともと奴のだったかのように俺以上に似合っていた。




 やはりこいつは黙っていればかわいいんだ。




「先程は見苦しいものをお見せしてすいません」




 これには、返事に困り言葉を濁してごまかす。




「さあ、詩織くん散歩に行こう」




 切り替えの速さだけはピカイチだな。




「ねえねえ、君と僕今日お揃いだね」




 そう言われて自分の服装と伊勢地の服装を見比べるふたりともジーンズに黒のパーカーを着ていた。




「それだけじゃなくて両方詩織くんのとか全くお揃いを超えたおそろいだね」




 こいつはこんなこと言ってて恥ずかしくはないのだろうか。




「あっその帽子貸して」




 伊勢地の指の先は俺が親に買ってもらったものの一度かぶったかどうかの代物だ。




「いいけどどう使うつもりなんだよ」




 真夜中に帽子っておかしくないか。




「フードそのままかぶるのだと味気ないしさ帽子かぶった上にフードをかけると、ほら」




 ただしスタイルが良い人に限るといった注意が必要な着こなしだったという感想だけ述べておこう。




 俺がやったらただの不審者だ。




「似合ってると思うぞ」




「じゃあレッツラゴー」




 おい無視かよひどいやつだ。




 ようやく俺たちは夜の散歩へとでかけた、警察に補導されませんようにという思いとともに。


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