【話をしようか ③】

 だんだんと語気は強くなり、彼の双眸は爛々と輝いている。己の主張を早口で唱え続ける様は、滑稽にも思えたが、その滑稽さすらも承知済みなのだ、とでも言うかのように堂々としていた。確かな言葉の重みがあった。後悔を噛みしめた先にあった、彼の「自分らしさ」が垣間見えたような気がした。

 「真の自分らしさ、それはあらゆる自分への肯定だ。そのために必要なことは、なんだと思う?単に『自分は自分なのだ』と思い込むだけでは不十分だ。その証明が必要だ。どうするか。それは、どの状況の自分においても揺るがない『ただ一つの真実があること』を見つけることなんだ。一人でいる時、仕事の時、友人と語らう時、家族と居る時。何もかもが清々しく思える時、逆にこの世の何もかもを憎んでいる時。あらゆる感情の果てに、それでもなお決して否定できないもの。そういう『何か』を発見することなんだ。そうして、真の『実存』を発見するんだよ。

―だから、僕は君に会いに来たんだよ?始めようか。」

 

いつしか、ラジオの音はすっかり止まってしまったようだった。



 [そうして。長い静寂が、ひとしきり空間を満たした後。空になったコーヒーカップがことり、と音をたてて、その音をきっかけにしたかのように。彼は、少しずつ話始めた。]


 [ある一人の男の、半生だった。]

 

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