第31話 悠久を生きる魔女の弟子
「良い子達だったわ」
満足そうに微笑むジェネヴィーブ様の手の中には、小さな光が二つ握られています。
一つは、エカチェリーナの魂。
そしてもう一つはヴェロニカのものです。
エカチェリーナの魂に寄り添うように、黄金に輝くヴェロニカの魂がありました。
彼女達は、何度もああやって寄り添いながら転生していたと、ジェネヴィーブ様は言っていました。
聖女は、あんな風な死を迎えても聖女であるようだから、また生まれ変わっても聖女となるのでしょうか。
それなら、竜達を封印する器のようなものであり、番となって子を成す役目も担えたエカチェリーナは、世界の支柱のようなものであったけど、次に彼女が生まれ変わった時はどんな役目が与えられるのでしょうか。
「私の中で二人仲良く過ごしなさい。そうして、私に語ってくれるかしら?二人が想いあった日々を」
先のことよりも、今は、目の前の問題に直面しているようでした。
エカチェリーナはジェネヴィーブ様の制約から外れることができたのに、予想通りに解放されません。
愛しく思った相手に殺されて、望み通りに死ぬことができたのに。
憐れだと思っているのか、羨ましいと思っているのか、自分の感情がわかりませんでした。
私の存在は、無いに等しいのです。
私には名前が無い。
いつ生まれたのか、どこで生まれたのかわかりません。
自分の存在も酷く曖昧に思えています。
鏡を見ても自分の姿が映らないのだから、自分がどんな姿をしているのかわかりません。
いつからジェネヴィーブ様の弟子なのか。
命じられるままなんでもさせられて、ヴェロニカの協力者としてルニース王国では橋を崩落させました。
ユーリアとヴェロニカが会っている時、私はヴェロニカの身代わり人形として、城の部屋に閉じこもって寝ていました。
それも、ジェネヴィーブ様とヴェロニカから指示されたことです。
私には善と悪の判断がわかりにくいけど、ジェネヴィーブ様が行うことはいつも善くない方に入るみたいです。
ジェネヴィーブ様の弟子となって最後に幸せになれた人を、私は知りません。
でも、エカチェリーナとヴェロニカのことは、やっぱり少し羨ましいのかもしれません。
誰かに必要とされて、愛してもらえて、彼女達の命には、少なくとも何かしらの価値はありました。
でも、私には何もない。
誰もいない。
ただ、命令されて、何かをこなす人形なのです。
それが良いとも悪いとも思えないから私は人形なのだけど、羨ましいと思ったのは、同時に、私も少しだけ欲を持つようになったからなのでしょうか。
エカチェリーナの赤い髪と深緑の瞳は好き。
綺麗で可愛いと思いました。
私も生身の体を持つ人に生まれ変われるのなら、赤い髪と深緑の瞳をもつ姿になりたい。
それは、あの子みたいになりたいってことなのでしょうか。
最期はああなったけど、ジェネヴィーブ様の弟子なのに思う通りにしなかった。
エカチェリーナはお人形ではなかったのです。
期待外れの出来損ないだと言われたエカチェリーナは、きっと次に生まれ変わる時に、お師匠様から何かしらの介入を受けて、過酷な運命に放り出されてしまいます。
この次は、ヴェロニカがエカチェリーナを殺すことになるのだと、楽しそうにジェネヴィーブ様は話していました。
「行くわよ」
「はい」
また、次も何かをさせられるのです。
私には魔女の弟子以外の役割が存在しないから。
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