第21話

 その森、メメント森はかつて、シノナワスレソの森と言った。

 人は必ず死ぬ。そのことを忘れてはいけない。人ならざる身、数の寿命とて短い。無限でも永遠でもない。そのことを意味する名前が付けられた森。


 そこに咲く花、「カルペ・ディエム」は「その日の花を摘め」の意味。「メメント・モリ」とセットで使われ、いつか必ず死ぬのだから、その日、その日をパーッと楽しんじゃおうぜぇ~という陽キャ、パーティ・ピーポーな発想の言葉だ。


 洋の東西を問わず、同じ発想の歌は作られ、中国の漢詩にも人生は短いから今日の宴を楽しんじゃうぜぇというものは枚挙にいとまが無い。


 しかしながら、やはり私のような先を気にする数にとって、メメント森は陰気な警句である。不気味な森の最奥にある奇数の国と偶数の国の国境に、最凶の魔女が待つ。


「いいですか。「5」将軍。絶対に無理はいけません。敵わないと判断したら逃げてください。向こうも、こちらの国に深くは入りたくないはずです」

「奇を見てせざるは勇無きなり。分はこちらにあります。ご心配なく」


 将軍は愛用の得物、五戦斧を振り上げ、力を誇示する。


「しかし、国境に敵が来ていることなど、よく見つけましたな」

「そ、それは、た、たまたまですよ」

「偶数だけに、偶々……」

「は、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」


 時空を埋めるような乾いた笑い。


 やがて国境付近。


「お、居りました。麗しい乙女だが、確かに、まがまがしい雰囲気を出しておる」


 将軍にそう評されたプリンセスはユーリとの約束通り、こちらに背を向け、我々を見ないようにしていた。


 我らがジェネラル・ファイブは愛用の得物、五戦斧を振り上げ、「2」を真っ二つにせんとした刹那、無詠唱の重力の魔法が炸裂。「5」将軍は戦斧を取り落とし膝を着く。


 しかし、なぜ重力なのだろう。「2(に)」から「ニュートン」は少し、語呂合わせにしても乱暴すぎる。私の疑念にプリンセス・ツウがヒントめいた言葉をくれる。


「この蛮勇の徒が!」


 なるほど、将軍は「蛮勇引力の法則」にかかってしまったらしい。不意の攻撃に対して自動で発動するイージスシステムな魔法。

 プリンセス・ツウは迷い無く次の魔法を発する。容赦ない攻撃。最終的には温度に関する魔法で冷気熱気を浴びせられジェネラル・ファイブは跡形も無く消え失せた。


 なんてこった。「5」将軍でも歯が立たないとは。


「は、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」


 時空を埋めるような乾いた笑い再び。


 そして、なんてこった、あの「33」を未亡人にしてしまった。違うな未亡数だ。

 いやいや、しかし未亡数という言い方は酷いな。先立たれた者に対して「未だ亡くならない」と表現し、しかもそれを女性側でしか適用しないとは。

 男の側にも何か対応する言い方を決めてやると良いな。男は妻が死んだら程なく死ぬから「即亡人」とでも呼べばいい。


 そんなことを考えていた一瞬。


「夫の仇!」


 そう叫んで出て来たのは「33」、サーティ・スリーである。


 可哀相に「33」は冷凍と解凍を繰り返され、グズグズになって死んだ。

 

 どうしようかな。まあ、説明やら隠蔽やらの手間が省けた。

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