第18話 最初の男
さて、私は吟遊詩人なので音楽に乗って帰る。
帰ってきた私を出迎える悩み顔。一応、主であるユーリは数列を眺めて考えている様子であった。
「やはり妻帯者ではない方がよいな」
「閣下が最低限のモラルは持ち合わせているようで安心しました」
「ふん、褒めても何も出んぞ」
もちろん、何も、褒めてない。
さて、数の世界で結婚という概念がどうなっているのか。
数学的な運命的な因果ということでもなく、刹那的に結婚し、子どもが出来たり、出来なかったり、そういう感じであって、その子どもも親の数値と較べて因果があるような無いようなであり、結婚というものはよく分かっていなかった。
まあ、どのみち自然数だけの世界などいうものは一家離散数学の世界であって、幸せな結婚というものはない。
そもそもが結婚などというものは……
などと、数ごときが人間のような複雑なものの持つ制度をとやかく言うべきではない。
とにかく、多くの数にとって結婚とはつまらぬ陣営の現象、意味のない人生の減少、チェキラ、みたいなノリである。
とはいえ、いたずらに離婚や三角関係を増やすべきじゃない。
「じゃあ、「5」将軍はやめておくか」
ユーリはリストにバツを付ける。
私は知らなかったが、「5」将軍には「33」(サーティスリー)という妻が居るらしい。
しかし、話をどこで聞きつけたのか、あるいは聞き耳をたてていたのか、ユーリ腹心の部下である「29」ジレンマと「39」トリレンマ、この二数が飛び込んで来た。
「閣下、閣下、閣下、偶数の魔女を討つには「5」将軍より他、居りませんぞ」
「え、討つの?」
「当然過ぎます。万が一にも相手にほだされるような事が無いよう、夫婦仲の良いことで定評のある「5」将軍は適任です」
「ふ〜ん、殺すのね。その展開は考えてなかったなあ。大丈夫かなあ」
「不意を突けば確実です。武門の誉れ高い「5」将軍がやり損なうとは考えられません」
やれやれ、奇数の国の住民だけあって奇襲は大好きだ。
「でも、それで俺の功績になるかなあ?」
「通報者の価値は残ります。それに「5」将軍は閣下のことを高く買っています」
そんなことはない。最初は9が平方数であるから兵法に期待を寄せていたが、そっち方面がサッパリと分かって見放している。
だが、ジレンマ、トリレンマの数二人は、なんとしても「2」王女、プリンセス・ツウを殺してしまいたい。必死に説得する。
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