第31話 冒険が始まる

「ローナ!」

 世界樹の元へと俺は戻った。

 ローナは世界樹の座り込んでいた。

「キバ君……どうしたの? 声が明るいけど」


「俺は決めた。俺は〝オウカ〟の力を使って新世界を作る」


「—————ッ⁉」

 信じられないと彼女は目を見開く。

「そんな……! もう叶わないと思っていた……私のご主人様になってくれるんですね⁉ キバ君のキバ君自身のための新しい世界を作ってくれるって決めたんですね⁉」

 口に手を当てて喜ぶが———、

「いや、現実世界も異世界も両方守る。そして———俺のための世界も作らない」

「……だから、それだと限界が来るって言ってるじゃないですか」

「だけど、今はまだ来てない。それまでに頑張るってことはできるんじゃないか? それに、異世界が魔力枯れの状態にあること、世界樹の力の浪費で今のこの世界があること、みんな知ってるのか?」

「それは……言ったところで。新しい争いが生まれるだけです」

「もうすでに争ってる。現実世界を虐げている。それに現実世界を異世界に生まれ変わらせて新しい世界にしても、その新しい世界でいつかは争いが起きるんじゃないのか? 永遠に争いがない未来なんて来ない。滅びは来るし、争いは生まれる」

「だったら、やりたいことをやって好きに生きていくのが一番いいじゃないですか! 自分の思うままの〝楽園〟を! 自分のための〝楽園〟を!」

「違う! 〝我がまま〟だとダメなんだよ。それはただの〝孤独〟だ。〝孤独の楽園〟なんて意味はないんだよ。誰の言葉も聞かずに玉座に座ってもいつまでたっても成長しないで子供のまま……一人ぼっちで引きこもっているのと全く変わらないんだ。

 それどころか、自分の幼稚な意見だけを正しいと思い込んでどんどん幼くなってしまう。進歩がなく巻き戻っていく人生になってしまうんだ。

 生まれる前に戻っていく人生なんて、そんなの生まれた意味が何もない!」

「そんな……ことは……!」

 言葉に詰まるローナ。

 俺は、自分の言葉が的を射ているとも思っていない。

「だったら! どうすればいいんですか⁉」

「それに対する答えは———ない。

 その時に心で感じた〝あるがまま〟の答えを選ぶしかないんだ」

 先延ばしの意見だとは思う。だけど、それでもローナの言葉に従うわけにはいかないし、現実世界、異世界どちらかを犠牲にする選択も俺にはできない。

 ———いや、したくない。

「……意味が分かりません」

「わかってる」

 俺の言葉だけでは、お前に伝わり切ることがないということを、俺もわかっている。

 だから、

「一緒に行こう、ローナ。俺の答えをお前に見せてやる」

 ローナに向けて手を伸ばす。

「………」

 ローナは苦々し気な表情をしていた。

 だが、若干頬を赤らめており、

「ローナは、ローナ・シュタインという人間は今日まで父の計画を嫌悪し、この世界も現実世界も嫌悪し、藤吠牙という人間と私のためだけの新世界を望んでいました。

 キバ君と私だけの世界を望む私を満足させてくれる答えを———魅せてくれるんですか?」

「ああ」

「そうですか……」

 ローナは恐る恐る手を伸ばし、俺の手を取った。

「ずっと夢見てました。私とキバ君がまた冒険に出る日々を———、すごく楽しくて刺激的な日々を———だけど、一緒にいられるだけで、ローナは幸せだったのかもしれません」

 ローナの瞳には涙が浮かんでいた。

「また、冒険が始まるんだよ。どっちの世界も救う、新しい答えを見つける。それが俺たちの新しい冒険だ」

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