ツンツン女子はデレデレしたい
たい。
ツンツン女子はデレデレしたい
ツンデレとは男子の憧れの的。
普段はツンツンしている娘がふとした時にデレてそのギャップを魅力とした言葉。
事実、恋愛系小説の大部分で重要な要素と扱われ、男子はその様に萌えるという。
ギャップを用いることで普通のラブラブよりも可愛さを深く感じやすく総じてその要因は素直になれない女子が天邪鬼な態度を取ってしまうことである。
代表的な台詞例としては「勘違いしないでよね!」や「仕方ないわね」などが挙げられる。
「ーーって感じなんだけど、どう?この作戦。」
「やっぱり、私には難しいんじゃないかな…。」
私の自信満々の態度とは裏腹に親友のミナは不安そうだった。
事の発端は先日、ミナが私に恋愛相談をした事だ。
ミナは幼馴染のヒロトの事が好きなのだが極度の恥ずかしがり屋だった。
もっとヒロトと仲良くしたいのだがまともに口を利くことも難しい。
恋心を自覚するまでは普通に接していたのだが…。
そこで私が週末を返上して考えた作戦がこの「ツンデレ惚れさせ大作戦」である。
「大丈夫!恥ずかしがり屋なミナでもこれならいけるはず!」
「ハルカちゃんが頑張って考えてくれた案だもんね…。じゃあ、頑張ってみる、かも。」
ミナは顔を赤らめてそう言った。
「応援してるから!頑張ろ!」
「うん。ありがとう。」
笑ったミナは同性の私から見てもとても可愛い。
普通に仲もいいし告白が成功しないはずはないと思うのだが…やはりこういったことは本人の気持ちが大切なのだろう。
そして私たちは機を見計らってヒロト君の元へとやってきた。
今日は彼が教室の掃除を担当している日だ。
担任が綺麗好きで自分でもやってしまうのでやらなくても問題ないのだけれどそれでも欠かさずにやっている。
「どうしよう、ハルカちゃん。」
ミナはまだ勇気が羞恥を超えられていないようでたじたじしている。
「ほら、行ってこいっ。」
私はそっと物理的にミナの背を押した。
「わわっ」
体勢を崩しながらも教室に突入した彼女はヒロトの視線を一身に受ける。
「どうした?ミナ。」
ヒロトは頭の上に疑問符を浮かべている。
(ミナならいける。さあ、頑張れ!)
私は心の中で熱い声援を送っていた。
あの作戦を立案してから今日までの間、ミナは様々な台詞や仕草を勉強してきた。
努力の成果を今こそ見せてヒロトを惚れさせるのだ。
ミナは後ろに組んだ手をもじもじさせていたが、やがて口を開いた。
「掃除、しにきただけ。あんたには関係ないでしょ。」
私は扉の影からガッツポーズをしていた。
予習が活きている。
あれは誰が見てもツンツンしているだろう。
返事もしっかりと出来ているし。
「おお、そうか…。」
ヒロトは若干戸惑っているようだが想定内だ。
今は強い一撃を入れる為のチャージ段階なのだから。
しばらくの間、二人は黙々と床を掃いていた。
だが、ヒロトが沈黙を破る。
「なんで手伝ってくれるんだ?」
「別に…。あんたの為じゃないわよ。」
「でも、これは俺の担当だし…。」
いいぞ。
二つ目の台詞も回収できてる。
この調子で最後にデレれば勝ち確定だ。
その間にも教室は綺麗になっていく。
微かに落ちていた埃の一つすらも淘汰されて黒板が緑を増す。
カーテンやエアコンの設定、電気などの細々としたものを終わらせて二人は一息を吐いた。
「ありがとな。助かった。」
そう言ってヒロトはまたミナに話し掛ける。
(感謝が来た!今こそ溜めに溜めていたデレを解放する時!頑張れ!ミナ!)
私の心中はいい感じの二人に既にクライマックスに入っている。
ミナは少しして口を開く。
私は勝ちを確信し、ドアの陰からガッツポーズまで決めていた。
「勘違いしないで。別にあんたの為じゃないし。」
「「え?」」
この瞬間、私とヒロトは全く同じ台詞に至った。
(まだツンツンやるの…?)
ヒロトも予想以上に辛辣な答えに困惑しているようだ。
「いつもそうやって自分の為だって拡大解釈して。そういったところがいつかあなたの身を滅ぼすの。全く、ヒロトのバカ。ドジ。あんぽんたん。」
「「えぇ…?」」
再び私とヒロトは同調してしまう。
(何その貶してるのか心配してるのか微妙に判別がつかない悪口…)
私もすっかり混乱していた。
だが、ミナのツンツン具合は留まるところを知らない。
「掃除だってたった一人で馬鹿正直にやって。どんなに大変でも笑ってばかりいる。孤軍奮闘ばかりで、その実孤立無援で寂寞を欠片も見せない。あなたのそういうところがほんと我慢ならないのよ!」
そう溢しながらミナはぽかぽかとヒロトのことを叩いている。
(あれはあれで可愛いかもーーじゃなくて、なんでそんな語彙力豊富に罵倒してるの!?やりすぎだよ、ミナ…)
「悪い。今度からはもう少し、ミナに頼ることにするよ。」
「ーーっ!好きにすれば!?じゃあね!」
言い放ってミナは教室を飛び出し、私には目もくれずに駆け出していってしまった。
一瞬見えた顔は真っ赤っかで、周りを見ている余裕は無かったのだろう。
一人取り残されたヒロトは一言、呟いた。
「くそ、また失敗した…。」
顔を覆った手の隙間から覗く肌は明らかに朱に染まっていた。
「うわぁぁぁ。絶対嫌われちゃったよぉ。」
ミナが落ち着いたであろう頃に電話を掛けて私の部屋で集まったのだが、見ての通り転げ回っている始末であった。
「落ち着いて。考えすぎだよ、ミナ。」
「だって、だって!あんなにひどいこと言っちゃったんだよ?」
「でも、ヒロト君はミナに頼るって言ってたじゃん。」
「うう、確かにそうだね…。」
少しはオーバーヒートした頭が冷めてきたようだ。
「途中までのツンツンは良かったんだけどなぁ。」
「だっていつデレればいいのか分かんないんだもん…。」
「道理であんなにキレッキレのツンツンを発揮し続けてたのね。」
「タイミング見失ったらああなっちゃったんだよ…。」
「まあ、そんなに落ち込まない。少なくとも、会話は出来るようになったでしょ?」
「うん。そうだね。ハルカ、本当にありがとう~。」
「わわっ。なんでそんなにひっついてくるのさ。」
「感謝のあまりひしと抱きしめたくなって。」
「その積極性をヒロト君に発揮出来たらねぇ。」
「む、無理。恥ずかしいもん。」
「だろうね。まあ、気楽にいこうよ。私も付いてるんだし。」
「私、頑張る!」
どうにかミナの精神状態とモチベーションはすっかり回復したみたいだ。
「絶対に脈なしでは無いし。」
「え?何か言った?」
「いや、なんでも?」
「えー、何ー?教えてよー!」
「だーめ。」
「ひどーい。」
二人の恋はあのぐらい初々しくて丁度いい。
もちろん、私が見ていたいって言うのもあるんだけど。
やっぱり、恋愛というのは過程が大切なのだ。
結果なんて成功か失敗の二択しか無いのだから。
だから、私は親友として見守っていよう。
ツンツン女子はデレデレしたい たい。 @tukawareteorimasenn
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