第22話、ショッピングモール

 俺達はそれからサイベリヤで楽しいひと時を過ごした後、大きなショッピングモールへ向かった。

 

 休日という事もあって中は多くの人で賑わっていて、その人の多さに最初は少し戸惑っていた俺と純白だったが、いざ歩き始めるとその雰囲気にすぐ馴染んでいった。


「ねえねえ兄さん。せっかくの機会ですし洋服屋さんだけじゃなくて色んなお店を見て回りませんか?」

「ウィンドウショッピングか、いいね。何気にこういう機会ってあんまり無かったもんな」

「そうなんです。だから今日はいっぱい楽しみたいなって思ってますっ!」


 飛び跳ねるようにはしゃぐ純白が可愛らしい。でも人も多いしはぐれないようにしないとな。こんなに元気いっぱいだと目を離したらすぐに何処かに行ってしまいそうだ。


 実際、前にはぐれて純白が迷子になった事もあったのだ。


 小学生の頃、夏祭りに二人で出かけて、たくさん並んでいる屋台を見て純白は大はしゃぎ。純白は買って遊んで食べて走って、気付いたら俺の隣から姿を消していた。


 俺が慌てて探し回っていると、しばらくして泣いていた純白を見つけた。迷子になった事に気付いて泣きながら俺を探していたらしい。


 あの時の大泣きしている純白の姿は忘れられない。当時はまだ俺の事を『お兄ちゃん』と呼んでいて、お兄ちゃんお兄ちゃんと俺を探しながら泣いてる純白も可愛かったな。


 とにかく普段はしっかり者の純白だが意外と抜けている所もあるのだ。


 そんな過去の経験を踏まえ、俺は純白に手を伸ばした。


「ほら純白、はぐれるぞ。手繋ごうな」

「あ……っ」


 差し出された手に一瞬きょとんとした純白だが、やがて頬を赤らめておずおずと自分の手をそこに重ねてきた。そして指を絡めるとぎゅっと握り締めてくる。


「よし、いい子。純白ははしゃぎ過ぎると迷子になっちゃう事があるから、ちゃんと掴まってろよ」

「……えへへ、なんだか子供扱いされてるような気がしますけど、兄さんの温もりを感じられて嬉しいです。それに昔を思い出してちょっと懐かしい気分になりました」


「純白も夏祭りの事、思い出したか。俺もあの時は必死になって探したもんだ」

「ふふ、わたしも泣いたりして迷惑かけちゃいましたよね。それから兄さんはわたしが離れないようにってずっと手を繋いでくれました。今みたいに優しくて温かい手でした」


 そう言うと純白は甘えるように俺の腕に抱きついてくる。ふわりとシャンプーの香りが鼻をくすぐった。とても甘い匂いでそれだけでもドキドキとしてしまう。


「ま、周りの人が見てるだろ?」

「えへへ、見せつけてるんですっ。兄さんはわたしの大切な人だーって。それにほら、離れたらまた迷子になっちゃいますよ?」


 純白は上目遣いで悪戯っぽく微笑む。その瞳は熱を帯びていて俺を見つめて離さない。


「全くもう、純白は。じゃあ今日だけは特別だからな」

「やったぁ! 兄さん、優しいです、大好きですっ」


 嬉しそうにぴょんと跳ぶ純白が可愛い。

 周囲に見られている恥ずかしさよりも、こうして純白とくっついている嬉しさが遥かに勝ってしまう。


 腕に感じる柔らかさと体温にドキドキしながらも俺は純白と共にショッピングモールの中を散策し始めた。

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