第21話、何処でも楽しい

「兄さん、お昼はここにしませんか?」

「サイベリヤか。他にも喫茶店とか色々あるけど、ここでいいのか?」


「はいっ。サイベリヤって美味しくて安くて、とってもメニューが豊富じゃないですか。わたし達、まだ高校生ですし、色んなものを頼んでシェアすれば沢山食べられますよね」

「純白と色んなメニューをシェアか。なんかそれ楽しそうだな」


 純白が指差したのは駅の近くにあるサイベリヤ。


 サイベリヤは多くの店舗が全国展開しているファミレスで、値段もリーズナブルで色んな人から人気なお店である。


 確かにあそこの料理はどれも美味しくて、種類も豊富で飽きない味だから食べ盛りの俺達には持ってこいの場所である。


 それにお年玉を持ってきたとは言え、今日は服をメインに買い物をしていきたい。少しでも昼食の予算は抑えたいところだ。


 俺は純白を連れてサイベリヤに入る。


 休日という事もあって店内は賑わっており、家族連れの客からカップル、友達同士で来ている学生グループなど老若男女問わず多くの人々が食事を楽しんでいた。


 俺達は早速、店員に壁側のテーブル席に案内された。四人席しか空いていなかったようなので、俺達は壁際のソファーに隣り合って座る事にする。


「純白は何食べたい?」

「メニューがいっぱいあるので目移りしちゃいますね。ピザにパスタにハンバーグ、ドリアにステーキなんかもありますよ。あっ、このプリンとっても美味しそうですっ」


「食後はプリンを頼もうな。純白とシェアして食べるなら、切って分けられるピザにしようかな俺は」

「それなら別々のピザを頼んで、二人でミックスしませんか? わたしと兄さんのスペシャルピザですっ」


「おっ、ナイスな提案だな。それじゃあ俺はソーセージピザにドリンクのセットにしよっと」

「わたしはモッツァレラチーズのピザにしますっ。わたしもドリンク頼んで……あっ、プリンも良いですか? ずっと気になってて……」


「もちろん。ここは俺の奢りだから遠慮せず好きな物を頼んでくれ」

「わーい、兄さんありがとうっ! 食後のプリンとっても楽しみですっ」


 お互いに注文するものが決まったところで、俺と純白は呼び出しボタンを押した。


 それから少しすると店員さんがやって来たので、俺と純白はそれぞれ食べたかったものを注文する。


 最後にデザートのプリンを頼むと、ウェイトレスさんは注文を繰り返して戻って行った。


 純白は店内に入ってから、ずっとにこにこと楽しげで嬉しそうである。椅子に座りながら足をパタつかせて、青い瞳をきらきらと輝かせていた。


「純白、楽しいか?」

「はいっ、すっごく。兄さんとお出かけして二人で食事ってあんまりした事ないので、今とっても嬉しいんですっ」


 俺が話しかけると純白は満面の笑みを浮かべて答えてくれた。


 今どきの女子高生ならSNS映えするような喫茶店でランチをするんだろうけど、純白は俺と一緒ならどんなお店でも喜んでくれる。


 今日こうして訪れたサイベリヤも俺と純白なら最高のデートスポットに早変わりだ。


 本当に純白ってば何処に連れて行ってもこうして喜んでくれるから、微笑ましくて可愛くて、俺も楽しくなるんだよなぁ。


「おっ、頼んだメニューが来たみたいだな」

「はいっ。兄さんとわたしのスペシャルピザです。早く食べちゃいましょう」


 純白は待ちきれない様子で店員が運んできた二つのピザを眺めている。

 

 それからテーブルにお皿が並んだところで俺達二人は両手を合わせた。


 いただきますと声を揃えて、それからピザに綺麗に切り分けて俺達はピザを交換していく。そうして出来たのが俺と純白のスペシャルミックスピザだ。


 お互いにフォークを持ってピザを口に運ぶ。純白は小さくて可愛い口で、俺は大きく口を開けて、ゆっくりとピザを楽しみ始めた。


「このピザ美味しいです、兄さんっ。もっちりしたチーズがとろけて美味しさ倍増ですっ」

「本当だな。焼けてサクサクしたソーセージも最高だし、ピザ生地もモチモチ食感でめっちゃ美味いな」


「はい。こんなに美味しくて安いなんてサイベリヤ凄すぎますっ」

「それだけじゃなくてさ、大好きな純白と一緒に食べてるから余計にそう感じるのかも。一番の調味料は美味しそうに食べる純白の笑顔だなって実感する」

「にゃっ……!?」


 素直な気持ちを俺が口にすると、純白は顔を真っ赤にして俯いてしまった。そしておずおずと照れながら上目遣いで俺を見つめてくる。


「ふ、不意打ちはずるいですよ……。に、兄さんはいつも平気でそういう事をいきなり言うから……心の準備が出来てませんっ」

「心の準備が出来てないタイミングを見計らって言ってるんだぞ。だって照れてて可愛い純白が見たいから、つい言っちゃうんだし」


「も、もうっ……また可愛いって。恥ずかしく死んじゃいます……」

「それは困るな……。よし、純白。生き返れー」

「に、兄さんの頭なでなでっ……! 生き返るのでもっとしてくださいっ」

 

「はいよ。なでなでー」

「ふにゃぁ……。に、にやけちゃうの止まらないですっ」


 顔をふにゃふにゃに綻ばせる純白は反則級の可愛さだ。俺はその愛くるしさにやられてしまいそうになる。

 

 そして俺に頭を撫でられるのが嬉しいようで純白はさらに笑みを深めていた。


「ふふ、兄さんのおかげでとーっても楽しいです」

「ああ、俺も楽しいぞ。純白」


「これからも色んなお店を回って、今日は楽しい思い出をいーっぱい作っていきたいですっ」

「そうだな。俺も純白とたくさんの思い出を作りたい」


 隣り合ったソファーの上で肩を寄せ合いながら、俺と純白は幸せな時間を過ごす。


 それにしても――俺のおかげで楽しい、か。純白にとっては何気ない一言だったかもしれないが、その言葉はじんと俺の心に響いてきた。


 タイムリープした事で人生を俺はやり直している。


 愛してしまったが故に突き放してしまった純白を、俺は一度目の人生で何度も悲しませてしまった。


 でも、だからこそ、二度目の人生でこうやって純白を笑顔に出来るのはとても嬉しい事だ。


 これから先もずっと、純白の幸せそうな表情を見ていきたい。改めてそう思う。

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