第17話、おやつの時間

 テーブルの上には俺と純白が作ったパンケーキが並んでいた。


 生クリームで仕上げたチョコレートソースの上にナッツとベリーでトッピングして、ふわふわもちもちのパンケーキに彩りを加える。


 純白は美味しそうなパンケーキを前にしてキラキラと瞳を輝かせていた。


 ケーキに合うように紅茶も用意して至福のひとときの準備は万端。俺達二人はテーブルに向かい合いながら座っていた。


「それじゃあ食べようか、純白」

「はい! いただきますっ」


 二人で手を合わせた後、純白はフォークとナイフを手に持ってパンケーキを一口サイズに切り分けていく。それにたっぷりのチョコレートソースをつけて、ナッツとベリーと一緒に口の中へと運ぶ。


 もぐもぐと味わう度に純白の顔がどんどん綻んでいく。とろんとした瞳で俺を見つめながら嬉しそうに感想を伝えてくれた。


「すっごいふわふわですっ。それにもちもちしてて、お口の中がしあわせですっ! 兄さんの作ったパンケーキは世界一美味しいですっ!」


「ケーキの方は純白が頑張って生地を作ってくれたからさ。俺は最後に焼いてあげるくらいしかしてないし」


「わたしは兄さんの指示を聞いた通りにやっただけですから。それに焼き加減も絶妙で、焦げ目もなくふっくら焼けています! チョコソースだってびっくりするくらい美味しくてっ、すごいです兄さん!」


 そう言いながら美味しそうにケーキを味わう純白。頬に手を当ててうっとりとしながら幸せそうに食べる姿は可愛くて、見ているこっちまで幸せな気分になる。


 俺は自分の分を切り分けて口に含む。

 うん、我ながら上手く出来ている。ちょっと濃い目の甘さのチョコソースがパンケーキに合って最高だ。純白が言う通り生地がふわふわでもちもちしているから、美味しくてほっぺだが落ちてしまいそうだ。


 そうしてパンケーキを飲み込んだ後、紅茶に手を伸ばすと純白がフォークにケーキを刺して俺の前に差し出していた。


「ん? どうした?」

「あの、えっと、その……兄さんにケーキを食べさせてあげたいな、と思いまして……。ダメですか?」


「今度は純白から甘やかしてくれるのか? 嬉しいな」

「はい、なので……その、あーんですっ」


 純白は恥ずかしそうにしながらも目を逸らさずに見つめてくる。俺は純白に言われるまま口を開けて、差し出されたケーキを食べた。 


 すると純白は頬を真っ赤に染めながらも幸せそうに微笑んでくれる。


「えへへ、兄さんに食べさせちゃいましたっ」

「ありがとう純白。凄く美味しかったよ」


「良かったですっ。あ、兄さん……今度は兄さんからして欲しいのです……」

「俺から? いいぞ。ほら、純白。あーん」

「あーんっ」


 純白にお返しとして俺も同じようにケーキを食べさせる。そうやってお互いに一口ずつ交換した後、二人して照れ笑いを浮かべる。


「ふわぁ……兄さんと食べさせあいっこ。幸せです……ドキドキしますっ」

「照れてる純白は可愛いな。そんな可愛い妹には、はい。あーんだ」

「あむっ。おいひぃれすぅ……」


 もう一度パンケーキを差し出すと、純白はそれを嬉しそうに食べてくれる。そして口元を押さえて幸せそうに微笑んでくれた。


 ケーキも甘くて美味しいけれど、こうして純白と過ごす時間はそれ以上に甘くてとろけてしまいそうだ。


 ゆったりとした甘い時間を堪能して二人で互いのケーキを食べさせ合う。そうしてパンケーキを完食し紅茶も飲み終えた、その後。


 食器を片付けようと立ち上がった時だった。

 純白が俺の服の袖を掴んできたのだ。


「ん。純白?」

「あ、あの……兄さん、甘えたい……です」

「我慢出来なくなっちゃったか。いいよ、じゃあ食器の片付けは後にして、先にお昼寝しようか。今日は父さんも帰ってこないし怒られる心配もないから」


 そう言いながら純白の頭を撫でると、妹はコクリと小さく首を動かして返事をしてくれた。


「それじゃあリビングに二人でお布団敷いて横になろう。窓際で日向ぼっこだ」

「に、兄さん。リビングじゃなくて、兄さんのお部屋でお昼寝は駄目ですか……?」


「え、俺の部屋? ベッド小さいけど大丈夫か?」

「小さい方が良いです……兄さんともっとくっつけるので……。だからお願いです、兄さんっ」


「本当に純白は甘えんぼうなんだから。分かった、俺の部屋でお昼寝しよう」

「やったっ。兄さんのお部屋でお昼寝……ああっ、今からもう楽しみで溶けちゃいそう……」


「ほらおいで、溶けちゃいそうな純白を俺の部屋にご招待」

「はいっ」


 そう言って俺は純白の手を取って二階にある自室へと連れていく。部屋の扉を開けると純白は興味津々に辺りを見渡していた。


 綺麗に整頓された本棚や机、それにシングルベッド。テレビにゲーム機に男子高校生らしいごく普通の部屋。けれど純白はその光景に目を輝かせる。


「わぁ……兄さんの部屋。やっぱり良い匂いがします……」

「そうかな? 芳香剤とか何も置いてないんだけど」


「む、むしろそれが良いです! 兄さん、芳香剤とか置いちゃだめですよ? このままが良いのですっ!」

「純白がそう言うならそうする。でもさ、あんまり見渡すのは無しだぞ? 恥ずかしいから」


 純白に見られて困るようなものは何もないけど、やっぱり少し緊張してしまうな。俺があんまり純白の部屋に行かないように、俺の部屋にもあまり純白を入れた事はないから。こうして純白を部屋に入れるのはスマホの使い方を教えてあげた時以来か。


 今日はいっぱい純白を甘やかしたいから特別だ。二人で日向ぼっこしながらの昼寝、すごく楽しみである。


 俺は閉めていたカーテンを開いて春の日差しを部屋に入れた後、ベッドに座って純白を手招きする。


「純白、おいで」

「……はいっ」


 純白は元気よく返事をして、俺の隣にちょこんと座る。そしてそのまま体を預けてきた。


 俺はそんな妹の体を抱き寄せて一緒にベッドへ寝転がる。純白はそれに素直に従ってくれた。


 二人で小さなベッドに横になる。

 こうして純白との甘々なお昼寝の時間が始まった。

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