第16話、お菓子作り
家に帰った俺達はキッチンに立っていた。
純白は部屋着の上にエプロンを纏って準備万端、俺も同じようにエプロン姿で準備を進めている。
「それじゃあ純白、一緒にパンケーキ作ろうか」
「頑張りましょうね、兄さんっ。えへへ」
長い銀色の髪をポニーテールの結んだ純白はやる気に満ちた表情で答えた。うなじがチラリと見えるその髪型はいつもより大人っぽくて可愛らしくて、そんな妹に美味しいものをいっぱい食べさせたくなる。
俺は材料を並べながら純白に指示を出す。
「純白、ボウルの中で卵をかき混ぜてくれないかな。そこに俺が用意しておいたヨーグルトと牛乳を入れて混ぜてくれ。俺は別の準備を進めておくな」
「分かりました! 卵とヨーグルト、牛乳をまぜまぜしたらいいんですねっ」
純白はボウルと泡立て器を手に持つと、慣れた手付きで丁寧に卵をとかしていく。そして卵黄と卵白が混ざったところで、俺が測ったヨーグルトと牛乳をそーっと流し込んでいく。ボウルの中で混ざり合って薄い黄色になったそれを見て、純白は満足気に笑みを浮かべていた。
「綺麗に出来ました、兄さん。ここにホットケーキミックスですか?」
「いや、その前に一工夫あってな。まあ軽い隠し味みたいなもんだ」
「隠し味、ですか?」
首を傾げる純白の前で俺は冷蔵庫の中からあるものを取り出していた。
それはなんとマヨネーズ、それを見た瞬間に純白は驚いたように目を見開く。
「え……あれ、パンケーキにマヨネーズ、ですか?」
「そ。マヨネーズにはグルテンの結合を緩める作用があってさ。更にベーキングパウダーとも反応してふんわり仕上がるんだ」
「し、知らなかった……!」
「意外だろ? ヨーグルトを入れたから生地はしっとりもちもちに仕上がるし、更に今のマヨネーズでふわふわ感も増す。こういう一工夫が美味しさの秘訣だな」
「兄さん、すごいですっ! ナポリタンも上手でお弁当も美味しくて……それにお菓子作りも得意だったなんてっ」
澄んだ青い瞳を輝かせて俺に満面の笑顔をみせてくれる純白。こうやって褒められるとなんだかくすぐったい、でもそれ以上に嬉しかった。
一度目の人生で俺は色んな事を経験した事が今こうやって純白の笑顔に繋がっている。後悔したあの日々の中で俺が積み重ねてきた努力は無駄ではなかったのを実感出来る。
そしてもっともっと純白を笑顔にしてあげたい、そんな気持ちを胸に秘めながら俺は純白に笑いかける。
「よし、マヨネーズを混ぜ終わったらホットケーキミックスをふるっていこう」
「はいっ。お任せ下さい!」
純白がふるい器を使うその横で、俺はチョコレートソース作りを再開する。
二人でキッチンに並んで立って、純白は楽しそうに鼻歌を奏でながらボウルの中で生地をかき混ぜる。俺はその可愛い音色に胸を弾ませながらチョコソース作りに気合いを入れた。
「兄さん、すっごく楽しいです。兄さんと一緒のお菓子作り、幸せですっ」
「俺も同じだよ。純白と一緒に作れて幸せだ」
「嬉しい……っ。大好きな兄さんと二人きりだからこんなにも幸せなんですね」
「そうだな。俺と純白の二人でするからこんなに楽しくて幸せなんだ」
「あーもうっ……お料理の最中なのに。兄さんに甘えたくて仕方がないのです……」
純白は頬をほんのりと赤く染めながら俺に上目遣いを向けてくる。
俺も純白を思いきり甘やかしたいけど、それは一緒にお菓子を作ったその後だ。
ぽんぽんと純白の頭を撫でると、妹は照れ臭そうな表情を見せながらも目を細めて微笑んでくれた。
「純白、お菓子を食べて一緒にお昼寝する時にいーっぱい甘やかしてあげるからな」
「えへへ、いっぱいくっついて兄さんにたくさんぎゅってしてもらいます。あっ、腕枕も忘れてませんっ」
「俺も忘れてないよ。楽しみにしててな。じゃあ生地も完成したし、後は焼いて仕上げよう」
「はい! わたし、頑張りますっ」
俺達は出来た生地を焼き始める。
そうして甘い香りに包まれながら一緒にパンケーキを作り終えたのだった。
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