第14話、膝枕

 朝食を食べ終えて食器を片付けた後、俺と純白はリビングのソファーでくつろいでいた。


 春の暖かな日差しが心地良く、窓から吹く風は爽やかな香りがする。


 そして純白はというと、隣に座って俺の肩に頭を乗せていた。


 妹の柔らかな髪が俺の腕に当たってくすぐったい。きっと甘えたくなったんだろうな、俺も好きなだけ甘えていいと言ったので純白を徹底的に可愛がる。


 寄り添う純白の頭を優しく撫でると、妹は気持ち良さそうに目を細めていて猫みたいだった。ふにゃりと蕩けた顔の純白はすりすりと俺の肩に頭をこすってくる。


「兄さん、すごいです……幸せすぎて溶けてしまいそうです」

「純白がふにゃふにゃになってる。可愛すぎるぞ」


「えへへ……もうっ。兄さん、ぎゅってしてください」

「いいよ、おいで」


 両手を広げると純白はこちらを向いて抱きついてくる。


 すると純白は満足したように息を漏らし、背中に手を回してくる。そして俺の胸に顔を押し付けてきた。


「わたし……幸せです。ずっとこうしてたいです」

「純白が望むならいくらでもしてあげるよ。俺も幸せだから」

「ふわあ……っ。嬉しいです……」


 胸の中で上目遣いに見上げてくる純白はとても愛らしい。


 しばらくお互いの体温を感じ合いながら、甘い空気に浸っていると純白が口を開く。


「えと……高校生になる直前、実はちょっと不安だったんです」

「不安? どうして?」


「兄さんと同じ学校に通うことが決まって、一緒に高校生活を送ることが出来ると思ってわくわくしていたんですけど……。兄さん、春休みになるちょっと前から、わたしと少し距離を置いているように感じてしまって」


「ああ……そうだったかもしれないな」


 妹である純白の事を異性として好きになってしまった俺。


 これ以上好きにならないよう妹と距離を置こうと決意したのは中学の卒業式の翌日であるが、それ以前からこのままではいけないと思っていた。好きという感情が溢れ出してしまって、どうしようもなくなっていた。


 血の繋がった妹だからと何度も自分に言い聞かせて、妹を愛していたからこそ自然と遠ざかっていったのだ。あの時点では一度目の人生で送った高校生活のような距離感ではなかったものの、それを純白は感じ取っていたのだろう。


「でも兄さん、春休みに入ってから変わりました。いくら甘えても隣にいてくれるし、わたしのことを避けるどころか積極的に構ってくれるようになりました。それが嬉しくて幸せで……」


「ごめんな、純白。ずっと不安にさせちゃってたんだな」


「謝らないでください。だって今の兄さんはいっぱいいっぱい甘やかしてくれます。高校生になっても兄さんと一緒に居られるんだと思うと嬉しくて、ずっとずっとこうしていても良いんだって幸せで」


「言ったよな、純白。これからもずっと一緒だって。だからもう心配しなくて良いから。徹底的に甘やかして可愛がって、純白をいっぱい笑顔にしてみせる」

「そこまで言われちゃったら……本当に甘えちゃいますよ? 今までより兄さんに甘えて甘えて、家にいる時はずっとくっついちゃいますよ?」

「俺も嬉しいから好きなだけ甘えてくれ」


 そう言いながら純白の頭を優しく撫でる。妹は嬉しそうな笑みを浮かべて俺を見つめてきた。


「いーっぱい、いっぱい甘えます。大好きな兄さんとたくさんお話したいです。お買い物にも行きたいです。お散歩したりお昼寝も一緒にしたいです」

「うん、そうだな。これからは遠慮しないで、どんどんわがまま言って良いぞ」


「えへへ、やったぁ……! じゃあ早速、一つお願いしても良いですか?」

「もちろんだ。何がしたい?」

「兄さんから膝枕して欲しいです……」


 純白は頬を赤らめて恥ずかしそうに言う。


 その言葉を聞いた瞬間、俺の顔も熱くなる。純白はとろんとろんに蕩けた表情でこちらを見上げていた。あまりの可愛さに胸が高鳴る、純白もドキドキしているのか耳たぶまで真っ赤に染めている。

 

 俺がとんとんと自分の太ももを叩くと純白はぱあっと明るい顔になり、ソファーの上で仰向けに倒れ込むと太ももに頭を乗せてきた。


 そんな純白の髪を優しく撫でると妹は気持ち良さそうに目を細める。そしてとろけそうなほど甘く優しい声で囁いた。


「兄さん、愛しています」

「……っ。このシチュエーションでそれは反則だ」


「むぅ、兄さんのばか。わたしはお返事が聞きたいのですっ」

「……俺も大好きだよ、純白。愛している」


「えへへ……幸せ過ぎて本当に溶けちゃいます」

「さっきからゆるゆるだもんな。ほっぺたとか」


「にゃっ……ほっぺつんつんだめっ」

「ほれほーれ。ふにふに」

「あははっ、兄さんくすぐったいですっ!」


 俺の膝を枕にしている純白の柔らかい頬をぷにぷにと押して遊ぶ。


 純白はくすぐったそうに身を捩らせながら楽しそうに笑う。


 この時間が永遠に続けばいいのにと思えるくらい幸せな時間だった。

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