第13話、朝の時間
結局、俺も純白も部活動に入る事なく、二人で一緒にのんびりとした高校生活を送る事に決めた。
毎日一緒に登校し、授業が終われば肩を並べて下校する。俺と純白のゆったりとした時間。隣で純白の笑顔を眺められる毎日は俺にとって何よりも望んでいたものだ。
そして何事もなく平和な日常が続き、あっという間に週末がやってくる。
今日は土曜日で学校は休み。
高校生になってから初めての土日休みは何して過ごそうか、そんな事を考えながらリビングへと向かう。
とりあえずは朝食を用意してから純白と話をして決めようと思っていたのだが、既にキッチンにはエプロン姿の純白が立っていて、鼻歌まじりにフライパンを振るっていた。
「おはよう、純白」
「あっ、兄さん。おはようございます」
朝から眩しい笑顔で答える純白、あまりにも可愛らしいので見ているだけでさっきまでの眠気は一気に吹き飛んだ。
俺は純白の隣に立って手元を覗き込む。
純白の作る今日の朝食は目玉焼きにソーセージ、サラダといったオーソドックスなものだ。お味噌汁も用意されていて炊飯器の方も準備万端、美味しいご飯が炊きあがっている。
「朝からありがとうな、純白。俺が朝昼夜作るって言ってたのに」
「いえ、むしろわたしの方が感謝してます。今日は兄さんにありがとうの気持ちを込めて作りましたっ」
「俺にありがとう? 何かしたかな?」
「兄さんは言ってたとおりに春休みから毎日朝昼夜、全部用意してくれるようになりました。ナポリタンを作ってくれたあの時から、ずっと感謝してるんです」
「なんだ、そういうことか。純白に喜んでもらえるだけで俺は満足だよ」
「でもでもっ、お家での食事当番はわたしのお仕事で……兄さんったら掃除に洗濯にゴミ出し、それにお買い物までしてくれますよね? 兄さんが全部してくれるようになって申し訳なくて……」
「家事の役割分担は以前からしてたけど、俺のやってる内容ってば雑な事が多くて結局は純白がやり直してくれたりしてただろ? だから今まで迷惑かけてた分、しっかりしないとなって思って」
「ふぇ……でも、そんな。わたし、兄さんの迷惑になってませんか……?」
「全然なってないよ。だからもっと甘えて良いんだぞ、純白。家事もそうだけど、他にもたくさん甘えてくれ」
一度目の人生で一人暮らししていた毎日の経験を活かせば、家事だって完璧にこなせるし美味しいご飯だって作ってやれる。純白の喜ぶ顔が見たくて色々としてあげたいのだ。二度目の人生では徹底的に純白を甘やかす、それが俺の生きがいだ。
そして純白は俺の言葉を聞いて、恥ずかしそうに頬を赤らめると上目遣いで見つめてきた。
「そ、それじゃあもっともっと甘えても良いのですか?」
「ああ。どんどん来い」
「えっと……じゃ、じゃあ、お家で一緒にいる時とか……もっとべたべたしても良いですか?」
「もちろん。好きなだけぎゅってしても良いし、純白がして欲しいならいくらでも頭を撫でるし、膝枕も腕枕もなんでもしてあげるぞ」
「ふわぁ……っ! だ、大好きですっ、兄さんっ!」
「俺も純白が大好きだぞ」
「あ、あわわ……っ。に、兄さんがわたしを好きって……」
「大好きだ。愛してるよ、純白」
「あうぅ……っ。嬉しすぎてっ……ああっ、卵こがしちゃうっ……!」
「それじゃあ続きは朝食が出来てからにするな」
「は、はひっ……! た、楽しみにしてますねっ」
純白はとろんとろんに顔を蕩けさせると、照れを隠すようにフライパンを振るっていく。
こうして喜んでいる純白を見て思うのだ。
一度目の人生では純白に『好き』ってあまり言ってあげなかったんだよな。
純白はいつも俺に向けて、大好きって伝えてくれるけど、それを俺が言葉にしてしまえば感情が爆発して大変な事になる気がしたんだ。
だから自分の想いに歯止めをかけようと、いくら純白に好きと言われても俺は素直になれず……その結果が一度目の人生で迎えた残酷な結末だ。
今回は決して後悔しないよう、純白への想いを俺は全て言葉にしてちゃんと伝えたい。そしていつかは純白と結ばれたい。二度目の人生では最高のハッピーエンドを迎えたいと俺は願っている。それを言葉と行動で示すのだ。
そして料理が出来るのを待っていると、朝食を皿に盛り付けた純白がこちらにやってきた。
俺は椅子に座り、テーブルの上に並べられた朝食を見渡す。
お味噌汁は勿論のこと、ソーセージも焼き加減が絶妙でサラダもレタスがシャキシャキでドレッシングが程よくかかっていて美味そうである。
さすがは純白だ。どれもこれも美味しそうで食べ応えがありそうだった。
ただ……俺が途中で好きだと純白に伝えたせいか、卵焼きだけ少し焦げている。流石にちょっと動揺させてしまったらしい。うん……料理中に甘やかすのは控えた方が良さそうだ。
「あはは……兄さん、ごめんなさい。卵焼きだけ慌てて少し焦がしちゃいました……」
「むしろ俺の方こそ邪魔しちゃってごめんな、純白」
「に、兄さんは悪くないですっ。わたしが悪いんですっ」
「いやいや、俺が純白に好きって言ったから。純白が可愛すぎてさ、ちょっとタイミングを考えるべきだったな」
「い、いえ……っ。あの、すごく、すっごく嬉しいので……いつでも言って欲しいのです。もっともっと聞きたいのです……」
「分かったよ。それじゃあこれからは毎日言おうかな」
「ま、毎日……その、嬉しいです。ああっ……兄さん、好き……」
「俺も純白が好きだよ」
「ふわぁ……っ」
すると純白は恥ずかしさが限界に達したようで身体をぷるぷると震わせながら俯いた。実は俺もかなり恥ずかしいのだが、それよりも純白の反応が可愛すぎてつい言ってしまう。
しかしいつまでもこの調子だとせっかく純白が早起きして作ってくれた朝食が冷めてしまう。俺は平静を装いながら純白に朝食を促した。
「それじゃあ純白、食べようか」
「は、はいっ。兄さん。いただきますっ」
「いただきます」
俺達は手を合わせて声を揃えた。そして箸を手に取り、一緒に朝食を食べ始める。
「んー、やっぱり純白の作るご飯は美味しいよ」
「ありがとうございますっ。えへへ、もっと褒めてください」
「このお味噌汁なんか最高だよな。出汁がしっかり効いてて塩加減が絶妙だ。それに美味しいだけじゃなくて心までぽかぽかして暖かくなる。本当に純白は良い子だな。こんなに可愛い純白からご飯を作ってもらえる俺は世界一の幸せ者だ」
「あうぅ……っ。そ、そこまで褒められちゃうと……照れちゃいますよぅ……」
「でも本当の事だからな。すごく美味しいよ、ありがとう」
純白の手料理を頬張りながら微笑むと、妹は恥ずかしがりながら嬉しそうな表情を浮かべる。
そんな純白を見ているだけで俺の心も満たされていった。
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