第12話、部活動見学
「ねえ兄さん。どこの部活から見に行きますか?」
「そうだな、文化部も良いけどまずは運動部から見に行こう」
「わかりましたっ。えへへ、楽しみですねっ」
放課後、俺と純白は部活動見学を始めていた。
先生から配られた部活動の紹介パンフレットを片手に持ちながら校舎内を歩き回る。
入学してから初めの一週間はどの部活も新入生の勧誘に力を入れている。朝も校門では上級生達が声を出して新入部員の獲得に勤しんでいた。
それはまさに青春の光景、見ているこっちまでワクワクしてくる。
(一度目の人生だとバスケ部に入ったんだよなあ)
前回の高校一年生の春。
俺は純白と離れる為にバスケ部に入部してそこで三年間を過ごした。
出来る限り同じ時間を過ごさないよう、そう思ってひたすらに仲間達と共にコートを駆け回った。
でも二度目の人生では部活動に参加するつもりはない。俺が二度目の人生で謳歌したい青春は仲間達と共に爽やかな汗を流して過ごす日々ではないからだ。
俺は高校生活の三年間を出来る限り純白と一緒に過ごしたい。純白を徹底的に甘やかして可愛がって、そして同時に純白から甘やかされる生活を送りたい。
今こうして部活動見学の為に校舎を回っているのも、俺にとっては純白と仲良くするイベントの一つで、二人で色々なものを見て楽しみたいからだった。
ちなみに純白は一度目の人生では部活に入っていなかった。今回も同じなら毎日一緒に登下校出来るわけだが、こうして二人で部活動見学をしている内に気が変わって、何かしらの部活に参加する可能性だってある。
それならそれで純白が部活動を頑張れるように応援するだけなのだが、やっぱり純白は部活動の内容よりも俺と一緒に居られる事が楽しいようで、部活動の紹介パンフレットよりも俺の顔を見上げている時間の方がずっと長かった。
「なあ純白。体育館でバスケ部が新入生向けに試合形式の練習を見せてくれるってさ。せっかくだから行ってみないか?」
「はいっ。兄さんが行くなら何処へでもついて行きますねっ」
俺の提案に笑顔で応える純白。部活動を見始める前からそれはもう楽しそうにしている妹の姿に顔を綻ぶ。そんな純白を連れて体育館に向かうと既に練習が始まっていた。
新入生歓迎モードなのか見学用のパイプ椅子が用意してあって、俺達のように見学しに来た生徒達がちらほらと座っている。
5対5の通常の試合形式で始まったバスケ部の練習を眺めながら、俺と純白もゆっくりとパイプ椅子に腰掛ける。
試合を繰り広げるメンバーはどれも俺にとって懐かしい顔ぶれだった。
厳しくも優しかった先輩達の姿、鬼コーチとして知られる顧問の先生。
彼らと一緒に全国を目指して必死にコートを駆け回ったあの時間は、今でも大切な思い出として心に残っている。
けれどそれは思い出のまま、そっと胸の中にしまっておこう。
俺は隣で試合の様子を眺めていた純白の手を引く。
「そろそろ行こうか。運動部はまだ他にもたくさんあるしさ」
「兄さん、良いんですか? 入学前にバスケ部に興味があるってお話してましたよね?」
「ううん、もう良いんだ。それよりもやりたい事を見つけたから。さあ行こう」
「分かりました。では一緒に」
俺は純白と一緒に席を立ち、体育祭の出入り口に向かっていく。
それからサッカー部、野球部、テニス部、バレー部、剣道部、柔道部、と色んな運動部を見学した後、俺達は文化棟へと向かった。
文化部の活動内容は多岐に渡り、書道部や文芸部、それに漫画研究会やゲーム研究会なんかもあった。
俺と純白は部活紹介のパンフレットを眺めながら文化部の活動内容を見て回る。
運動部の方も新入生で賑わっていたが文化部の方もなかなかだ。俺達と同じ新入生達が廊下を行き交っている。
「こうやって学校を散策しながら部活動を見て回るの楽しいな」
「わたしもすっごく楽しいですっ。中学の頃にはなかった色んな部活があって、名前を聞いただけでもわくわくしますよね」
「だな。ほらこれなんて気にならないか? 料理部だって。オリジナルレシピの考案や、文化祭ではレストランをやったりするんだってさ」
「兄さん、興味津々ですね。あんなに美味しいナポリタンやお弁当を作れる兄さんなら大活躍間違いなしですっ」
「しかし残念ながら、俺は純白の為だけに料理するって決めてるからな。料理部として腕前を披露するつもりはないかな」
「ふぇ……わたしの為だけに……えへへっ」
「また今度作ってやるからな、純白。お菓子なんてどうだろう? ケーキとかも実は得意だったりするんだぞ。ほっぺたが落ちるくらいの美味しいのを用意するから、純白の為に頑張って作るよ」
「兄さんの手作りケーキっ。ふわあ……楽しみ過ぎて今からドキドキしちゃいますっ」
一度目の人生で働いていた喫茶店ではパンケーキなんかも人気だったからな。レシピは頭の中に叩き込まれているし、材料さえ揃えればすぐにでも作れる自信があった。
純白は俺の言葉一つ一つに頬を緩ませて、とても幸せそうな表情を浮かべてくれる。そんな純白と一緒にいる時間は幸せそのもの。もっともっと純白を可愛がりたいという想いが強くなっていく。
そうして俺達は二人並んで歩きながら、ゆっくりとした足取りで文化部の活動を見学していった。
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