第11話、幸せな昼食
翌日、学校では通常の授業が始まっていた。
その教科を受け持つ先生達の自己紹介から始まり、初日という事もあって緩い感じで授業が進んでいく。
その光景の一つ一つが懐かしくて、一度目の人生で経験した10年前の記憶が鮮明に蘇ってくる。
あの教師は居眠りにうるさい、とか、この教師は頻繁に当ててくるので要注意だとか。教科書をぱらぱらとめくれば、中間テストの範囲はここまでだったな、なんてひたすらに懐かしさを感じていた。
それでも新鮮な気持ちになるのは純白との生活が一度目の人生と大きく異なっているからだろう。
大好きだったからこそ距離を離すしかなかった兄妹という関係。兄だからと身を引いた一度目の人生。
どんな時も俺は出来る限り純白と関わらないように決めていた。その度に悲しい顔をさせてしまった過去の記憶、二度目の人生ではそんな毎日と決別して俺は純白を徹底的に甘やかして一緒にいる事を決めた。
昼休みになれば一緒にお弁当を食べて、放課後になれば肩を並べて帰宅する日々が俺を待っている。
そう考えるだけでわくわくが止まらない。
早く純白と会いたい気持ちを抑えながら午前中の授業を駆け抜けた。
そして昼休みになると、俺は純白がいる一組の教室へと足を運ぶ。
純白の人気は今日も変わらず、妹の机の周りには大勢の男子が集まってあれこれとアプローチをしている最中だった。
俺が教室の入口で手を振ると、それに気付いた純白は花が咲いたみたいな明るい笑顔を浮かべて椅子から立ち上がる。そして周りの男子生徒にぺこりと頭を下げて俺の元に駆け寄ってきた。
「純白、それじゃあお昼にしようか」
「はいっ。一緒に食べられるのが嬉しいですっ」
満面の笑みを浮かべて嬉しそうにする純白に思わず俺の顔まで綻んでしまう。
そのまま二人で屋上に向かい、ベンチに座って二人で弁当箱を鞄から取り出した。
「兄さん、ありがとうございます。こうやって兄さんの手作りお弁当が食べられるなんて嬉しいですっ」
「前にナポリタンを作った時に言ったろ? 朝昼晩、全部俺が作るって。というわけで俺の手作りお弁当だ」
「わーいっ。それじゃあ早速いただきます!」
「どうぞ、召し上がれ」
純白はランチクロスに包まれた弁当箱を広げて目を輝かせている。そんな妹を横目に見ながら俺も自分の分を包みから解いて蓋を開けた。
弁当の中身は主に純白の大好物である卵料理をメインに、ハンバーグやほうれん草のおひたしなど色々なものを入れている。昨日の夜からしっかり時間をかけて準備したのでかなり良い出来だ。
さて、純白の反応はどうかな。
箸を手に持ってだし巻き卵を口に運んでいく純白の様子を伺う。
噛めばじゅわっと口の中に和風の出汁の旨味が広がって、卵がほろほろと崩れて舌の上で転がる一品に仕上げた。それに純白が好きな甘い味付けにしてみたからきっと喜んでくれるはず。
だし巻き卵を頬張る純白はそれはもう幸せな表情を浮かべて「すっごく美味しいですっ、兄さん!」と俺の手料理をベタ褒めしてくれる。
純白の反応を見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだった。
あぁ、本当に可愛いな。
自分の作ったものをこんなにも美味しそうに食べてくれる姿を見ると、心の底から純白への愛おしさが湧き上がってくる。
それにこうして学校で一緒に食事出来るのが何より嬉しかった。
一度目の人生では一人で食べるのが当たり前だった弁当。それが今は隣に純白がいてくれて、しかも俺の作った弁当を幸せそうな顔をしながら食べてくれている。
一人暮らしをして獲得した自炊スキルに、喫茶店の調理場で働いていた経験。その二つが合わさった事で純白が大喜びするくらいの料理が作れるようになった。
前回の人生で努力したものは無駄じゃなかったんだなと実感して胸が熱くなる。
これからも毎日純白の為に頑張ろうと決意しながら俺も弁当箱に箸を伸ばす。
そして純白と二人で幸せな昼食を共にした。
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