第10話、帰宅後の甘々な時間
「ねえ兄さん。高校では部活に入るのですか?」
下校して家に帰ってきた後、リビングのソファーでくつろいでいた俺の元に純白がやってきた。
部屋着姿になった純白は柔らかな笑顔を浮かべながら俺の隣に座る。
「兄さん、高校でバスケ部に入りたいって言っていましたよね。春休みもトレーニング頑張っていましたし」
「色んな部活があるから見て回ろうかなとは思ってるよ。せっかくの機会だしさ」
「それならわたしも一緒に行きたいです。中学の頃より部活動も盛んですし」
「もちろんだ。明日から授業も始まるし、終わったら放課後一緒に見て回ろう」
「はいっ。楽しみにしていますね、兄さん」
花が咲いたような笑顔を見せる純白。その眩しいくらいの可愛さに俺の頬は緩んでしまう。
めいっぱい純白を甘やかしてやろう、またいつものように妹の頭を撫でようと思った時だった。
俺が手を伸ばした瞬間、制服のポケットに入れていたスマホが通知音と共に震えた。
「悪い、純白。クラスメイトからだ」
「えとっ。もしかして、女の子ですか?」
「いや。クラスのグループトークだよ。新入生同士、これから同じクラスで毎日過ごすわけだしさ。改めてよろしくお願いします、って感じの内容だと思う」
RINEを開いて見てみるとやはりそうだった。
クラスメイトの半分くらいがグループトークに加入していて、それぞれが自己紹介の文章を並べていた。
一度目の人生の時を思い出してみても、こんなやり取りをした記憶はない。クラスのグループトークが存在していた事、全く知らなかったんだよな。
誘われてもいないしクラスでグループトークが作られている事を話している生徒はいなかったし。
これはもしかしてクラスカーストの順位が高い生徒だけが入れるグループで、前回の人生の俺みたいなクラスカースト下位の陰キャは立入禁止みたいなそういうやつか?
まじまじと参加メンバーを見ていると二年生から生徒会長を任される事になる戸山を始め、そして他にも明るくて気さくな男子や女子ばかりで構成されている。
つまりは俺もカースト上位のメンバーに選ばれた、という事になるのだが……なんだか複雑だな。初日からこうやってクラスでの立ち位置が決まってしまうなんて。俺自身も一度目の人生ではハブられている側だったので、なんとも言えない気持ちになる。
だからと言って批判的な立場を取るつもりはない。余計な発言をして浮いてしまってクラスメイトから敵意を持たれたら、俺の隣にいる純白にも悪影響を及ぼしかねない。ここは社会の荒波に揉まれた一度目の人生の経験を活かして上手く立ち回っていこう。
自己紹介の文章を考えながらスマホと見つめ合っていると、つんつんと純白が俺の腕を突っついてきた。
顔を上げると純白は不満そうに頬を膨らませながら俺を覗き込んでいる。
「兄さん、ずっとスマホとにらめっこしてます……っ」
「クラスメイトとの挨拶を考えてたんだ。純白のクラスにはグループトークとかそういうのないのか?」
「はい、わたしのクラスにもありますよ。でも……グループトークに参加してから男子の人が個別でメッセージを送ってくるようになってしまって。ちょっと大変です」
「グループに登録すると個別で連絡先の追加が出来ちゃうからなあ。純白は可愛いし性格も良いから、男子が夢中になっちゃうのも仕方ないよ」
「それは兄さんもですよ? 学校中の女子の間で噂になっているそうです、一年二組にすっごいかっこいい人がいるって」
「え、そうなの?」
「はいっ。でもいくら連絡先を聞こうとしても断られちゃうから、それが逆に好印象みたいで『クールでかっこいい』ってみんな口を揃えて言ってますっ。ぜんぶ兄さんの事ですからね?」
「クールでかっこいい……って、まじか」
俺としては単に純白に心配をかけないよう、女子との距離感に気をつけようと思っての事だったのだが……まさか裏でそんなふうに言われていたとは。
俺が女子からモテるだなんて前回の人生じゃ考えられないような事だったから実感がわいてこない。何かの間違いなんじゃないかと思うのだが、純白の真剣な表情からそれが本当の事なんだと伝わってきた。
「兄さんはもっと自分に自信を持つべきなんです。兄さんは優しくてかっこよくて、誰よりも素敵な男の子なんですよっ」
「それを言うなら純白もだよ。純白は優しくて可愛くて、誰よりも素敵な女の子だし」
「……っ。兄さんはもう……っ」
「はは、純白が言い出したのに。すごい照れて可愛い顔してる」
「そうやってからかってくるんだからっ……もう知りません」
純白はぷいとそっぽを向いてしまった。顔を真っ赤にしてぷくりと頬を膨らませる純白はやっぱりとても可愛らしい。
「拗ねてる純白も可愛いよ。ぷくぷくほっぺの純白ちゃん」
「むぅ……っ。兄さんのいじわるっ……」
「だって仕方ないだろ。純白の事が可愛くて可愛くてかまいたくなるんだから」
「に、兄さんがいじわるするならわたしも反撃しますからっ」
そう言って純白が俺の腕をぽんぽんと軽く叩いてくるので、俺も仕返しに純白の脇腹をくすぐった。すると純白は笑い声を上げながら身を捩らせる。
「あははっ、に、にいさんっ。だめっ、そこは弱いのですっ」
「ほーれ、ここか? ここが良いのか?」
「ひゃあっ、だ、だからやめてってばぁ……! も、もうっ。わたしだってー!」
「っ!? く、首筋は反則だって!」
「えへっ、兄さんの弱点発見ですっ」
今度は純白が俺の首元を指先で撫でてくる。その絶妙な刺激に俺は思わず背筋を伸ばしてしまうが、負けじと純白の脇腹をくすぐり続ける。
顔を赤くして息を荒げる純白、くすぐっていたら次第に妹の瞳がとろんとしてきた。甘っぽい熱を帯びた吐息は艶やかで、妹は潤んだ瞳で俺を見つめた。
それから純白はぎゅっと俺の事を抱きしめる。
薄いTシャツ越しの柔らかな感触。ふわりとした甘い香りと、服を通して伝わる体温。
そして純白の呼吸に合わせて上下に揺れる豊かな双丘の感触。ふにゅりと形を変えるそれに意識を奪われ、思考が一瞬だけ停止する。
たゆんたゆんでふわふわで、それでいてとてつもなく柔らかい。
そしてそのあまりの柔らかさで気付くのだ、薄いTシャツの下に純白は何も着けていない、ノーブラだ。家でリラックスしたい時に純白はこうしてラフ過ぎる格好をする事がたまにある。ちょうど今日がその日だったのだ。
たった一枚の薄い布越しに、はっきりと分かる純白の豊満な胸の柔らかさを感じて、俺の心臓はバクバクと鼓動を打ち鳴らしていた。
俺を抱きしめる純白は恥ずかしそうに頬を染めながら、しかし期待するような声音を聞かせた。
「あれ、くすぐるのやめちゃうんですか? ほら。もっとくすぐって良いんですよ?」
「っ!? あ、え、えと……っ」
「ふふっ、兄さんってば駄目って言うとしちゃうけど、良いよって言うと照れて恥ずかしがっちゃいますよね。可愛いですっ」
「さっきからかった仕返しに……今度は俺がからかわれてる!」
「確かに仕返しで兄さんをからかってますけど、嘘は言ってないですよ?」
「嘘は言ってないって……つまり?」
「はいっ。好きなだけくすぐっていいです。兄さんの触りたいところ、兄さんの好きにしていいですっ」
いつもの無邪気な笑みとは違う妖艶で大人びた微笑を浮かべた純白は、さらにぐいっと自分の方へと俺の体を引き寄せる。
純白の温もりと柔肌の滑らかさ、鼻腔をくすぐる女の子特有の良い匂い。
このシチュエーションに、理性がぐらつき始める。
やばい、純白を好きなだけ触っても良いだなんて、そんな――。
「い、いいのか? 本当に好きなところ、くすぐるぞ……?」
「はいっ。何処でもどうぞっ」
妖艶な笑みを浮かべたまま、純白はそっと体を離して、俺を受け入れようとソファーに寝転がる。
「えへへ、兄さんの顔が真っ赤になってます。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ? 何処が触りたいですか? 手とかお腹とか太ももですか。兄さんはどこが好きなんでしょう」
「ちょ、ちょっと待って……っ。まだ心の準備が出来てないというか……っ」
「心の準備なんていらないです、兄妹でのスキンシップですから遠慮なくっ」
そう言って純白はたわわに実った胸に両手を当てて、柔らかなそれを持ち上げる。まるで誘うように、煽るように、挑発的な視線を送ってくる。
そんな純白の表情に、妖艶すぎるその仕草に、俺の中の何かが弾けた。
本能のままに純白の体へ手を伸ばそうと――その時だった。
がちゃりと開く玄関の音、そして家中に響く大きな声。それは今日の入学式を祝う為に急いで帰ってきた父さんのものだった。
「おーいっ、帰ったぞー」
その声にハッとして我に返ると、純白の体に触れようとしていた手を慌てて戻す。純白もその声に驚いて、急いで起き上がって俺から離れた。気まずくなって互いに顔を真っ赤にして、俺達はソファーの上で反対を向いたまま固まってしまう。
リビングに顔を出した父さんはそんな俺達を見て首を傾げていたが、すぐにニカッと笑顔を見せて口を開いた。
「よーし、今日は入学祝いに寿司食い行くぞ―」
いつも通りの父さんの声音に安堵しながら、もしあのまま父さんが帰ってこなくて勢いに流されてしまっていたら……その先を想像しながら俺と純白は出かける為の支度を始めるのだった。
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