第7話、青春リスタート
桜の花びらが舞う並木道を俺は純白と並んで歩いていた。
今日は待ちに待った入学式の日。
タイムリープした俺にとっては二度目の入学式だが、前回とは比べ物にならないくらいに楽しみだった。
一度目の人生では純白を突き放した事で、毎日のように一人で通学していた俺。
でも今はそうじゃない。
澄んだ青い瞳で俺を見上げながら、柔らかな笑みを浮かべる純白が隣にいる。
妹と過ごす二度目の高校生活、その輝かしい毎日を考えるだけで、目の前に広がる満開の桜がより一層綺麗に見えた。
「兄さん、とっても楽しそうな顔をしています」
「ああ、楽しいよ。純白と一緒に通える事が嬉しいから」
「えへへ、わたしもですよ。これから毎日兄さんと高校生活を送れるなんて夢を見ているみたいです」
「ああ、本当に夢を見てるみたいだ。でも……夢だったら嫌だな、絶対に覚めたくない」
実はこうしている今も、春休みの最中も、実は夢を見続けているんじゃないかという不安が胸の片隅にあった。
時間を遡ったこの奇跡は現実ではなく夢の中の出来事で、本当は今も一人で孤独に眠り続けているんじゃないかと怖かった。
目が覚めたら隣には純白がいなくて、そして妹は別の誰かと結婚してしまう――残酷な現実の続きが待っているんじゃないかと思うと、何度も胸の奥が痛くなった。
そうして不安に駆られる俺を見つめながら、純白はそっと俺の手を握りしめた。
「夢じゃないですよ、兄さん。わたし達はこれからもずっと一緒です。高校でも、高校を卒業してからも、その先もずっとずーっと」
純白の柔らかくて小さな手が俺の手を優しく包み込む。その手を握り返すと純白はとても嬉しそうに微笑んでいた。
妹の温もりが教えてくれる。
夢じゃないと、これはずっと続いていく本物の奇跡で、俺がこれからも純白の傍にいられる事を。
「これからの高校生活で不安になる事はいっぱいあると思います。でも大丈夫ですよ、兄さん。わたしがついています」
「ありがとうな、純白。そう言ってもらえてすごく安心したよ」
「えへへ、いっぱい楽しい思い出を作りましょうね」
「もちろんだ。俺と純白で最高の高校生活を楽しもう」
可憐な花が咲き誇ったような、眩しい笑顔を純白は浮かべる。そんな妹が可愛くて、俺も妹に負けないくらいの満面の笑みを返した。
それから程なくして俺達の周りに同じ制服を着た生徒達の姿が見え始める。
新入生ばかりなのか少し緊張した面持ちで歩いている。そんな中で俺達は周りから視線を集めていた。
その理由はもちろん純白だ。
同じ制服を着ていても、純白は誰よりも可愛くて美しい。
まるで天使のような存在で、その場にいる誰もが妹の姿を目で追っている。
俺は純白の隣に立てる相応しい存在になれているだろうか? 春休みのトレーニングで変わる事が出来て、自己評価としては悪くないと思うのだが……こうして多くの視線を向けられると不安が込み上げてくる。
俺達を見ながらひそひそと話している女子生徒の会話に思わず耳を傾けていた。
一体何を言われているのだろう。
なんであんな可愛い子と俺が一緒にいるのか。釣り合っていないとか、そんな言葉が聞こえてくるのかと思っていたのだが。
「ねえねえ、あの二人すごくない?」
「うん。女の子の方はアイドルみたいに可愛いし、隣の男の子も身長高くてイケメンだよね」
「やばあ……あたし達の高校にあんな美男美女がいるなんて。ねえ、あのかっこいい男子ってあたし達と同じ新入生かな? お近付きになれないかな?」
「無理だよ、かっこよすぎるし……ウチらじゃ釣り合わないよ」
「だよね……二人が並んでるあそこだけ別世界だもん。輝いて見えるもん……あーせめて同じクラスになれたらなあ」
そんな声が耳に届いた瞬間、俺は思わず目を丸くする。まさかこんなに好意的な反応をされるとは思っていなかった。
でも純白の方はこの反応が当然のものだと思っていたようで、会話が耳に届いた瞬間から俺の服の袖を引っ張っていた。
ぷくぅと頬を膨らませながら、純白は不機嫌そうに唇を尖らせる。
「やっぱりこうなりますよね……。兄さんはかっこよくて素敵な人だから仕方がない反応なんですけど……なんだかもやっとします」
「そ、そうか? 確かに春休みの間で割と好青年な見た目にはなれたとは思うけど……ここまで言われる程とは」
「もうっ。兄さんは世界一カッコよくて優しくて、とっても素敵な人なんですっ。だからあんまり色んな人に優しくしすぎちゃうとだめですよ? たくさんの人から好意を向けられて大変な事になっちゃんですからね?」
「はは……まじか、善処するよ」
一度目の人生ではどれだけ周りに優しくしても好意を持たれたりする事はなかったのだが……どうやら俺の春休みのトレーニングは大成功を収めていたらしい。
色んな女子から好意を持たれるような外見になれたのは嬉しい事だけど、俺には純白がいる。妹を絶対に悲しませたくないので、高校生活では他の女子との距離感に気を付けないとな。
そうしてたくさんの生徒達からの視線を浴びながら、俺達はようやく校門の前に辿り着いていた。
桜が咲き誇る校庭には大勢の新入生が集まっている。
初々しい生徒達の姿を眺めながら俺は純白に話しかけた。
「なあ純白。これから三年間、一緒に仲良く高校生活を送ろうな」
「はい、兄さん。これからよろしくお願いしますね。でも、その前にちょっとこっち向いてくださいっ」
「ん?」
言われたとおりに純白の方に向き直すと、妹は背伸びをして俺のネクタイに手を伸ばした。そして結び方を整えてネクタイを真っ直ぐに伸ばすと小さく笑う。
その笑顔はいつもより大人びていてどこか色っぽかった。そんな純白に見惚れていると、妹は胸元に手を当てて俺を見つめ、優しく微笑みかけてきた。
「はい、兄さん。これでばっちりです」
「ありがとな、純白」
「えへへ。それじゃあ行きましょう」
「ああ、行こう」
この先にあるのは純白との幸せな未来だと信じながら、俺は純白と一緒に校門の向こうに足を踏み入れる。
純白と二人で新しい一歩を踏み出したこの日。
可愛すぎる妹との青春がリスタートしたのだ。
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