第23話

 サラティが尋ねるとアレサンド子爵が答える。


「レオパード伯爵家もサイべリアム子爵家もどちらも迷宮を破壊して終わりではなく、その後の利権目当てと言うことだ。

 単純に集団暴走スタンピードに対して状況確認と安全確保ならば、それこそ領軍から精鋭部隊を送り込めば良い。

 ただ、それを伯爵家、子爵家の者が先頭に立って行うとなると、リスクを上回るリターンを求めていると言うことだ」


「具体的には何を求められるのでしょうか?」


 難しい顔のアレサンド子爵に対して再びサラティが疑問を口にした。シルヴィアもイマイチ、理解できていない。


「少し順を追って話そうか。

 まず、サイベリアム子爵家の長男が来たことだが……。

 これは我がメイクーン領が安全であり、迷宮が見つかったことを知っている、ということだ。

 そもそも隣の領とは言え魔物モンスターが暴れているところに長男を送り出す貴族は少ない。

 仮に集団暴走スタンピードが収まっているとしても、得る物がなければ長男が来ることはない。

 なので、集団暴走スタンピードが一段楽していて、今、力を貸しておけば今後回収できる見込みがある、と判断された訳だ。

 その際、言葉だけでも、口約束だけでもいい。

 下っ端ではなく、少しでも蔑ろにできない者がお互いに認識することが大事な訳だ。

 まぁ、今回サイベリアム子爵家に多大な負担をかけてまでメイクーン家が助けてもらった場合、メイクーン家はサイベリアム子爵家に頭が上がらないようになる」


 ここでアレサンド子爵は言葉を切り、サラティとシルヴィアの理解度を確認した。

 サラティとシルヴィアは理解できたという意味でしっかりと頷いた。


「ついでに言うなら、サイベリアム子爵家としてはメイクーン家の後継者の確認、顔繋ぎを狙っているし、嫁候補としてお前たちの器量も見れる。

 それをしようとしてる訳だ」


「サイベリアム子爵家はレオパード伯爵家の重鎮としても評価されていませんでしたか?」


 長女として少しは近隣の情勢を知っているサラティが口を挟む。


「そう言われてるな。

 レオパード伯爵家は西部の要だ。領内には南に港もある。

 サイベリアム子爵家は立地的にはメイクーン家とレオパード家の間にあり、レオパード伯爵家との結びつきも強いと聞く」


「レオパード伯爵家からも来られたんですよね?」


 少しずつ内容を理解してきたシルヴィアが顎に手を当てて首を傾げる。


「そうだ。

 レオパード伯爵家からは次男のレゾンド・レオパードが来た。レゾンドは優れた水魔法の魔術師でもあり戦力としても大きい。

 彼の場合、重鎮のサイベリアム子爵家の支援という面が大きそうに見える。

 しかし、それも状況確認後に判断するためだな。

 メイクーン子爵家とサイベリアム子爵家を支援するように見せて、利権が大きければレオパード伯爵家で実質支配するつもりだろうし、利権が小さければサイベリアム子爵家に任せて間接的に支援をすれば良い」


「お父様、私たちはどうすれば?」


 状況をまとめたアレサンド子爵に向けてサラティが視線を鋭くする。


「できれば迷宮を自力で抑えつつ、復興のために両家の力を借りれば良い。

 力が足りなければ両家に頼れば良い」


「しかし……」


「元々領地の運営は単独でできるものではない。

 相手がこちらを見定めに来たのであれば、当家も相手を見定めれば良いのだ。

 その上で手を結ぶかどうか判断すれば良い。

 どちらにしろ我がメイクーン子爵家は蛇に睨まれた蛙なのだから」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る