第24話

 ハクが迷宮の十階層で閉じ込められた翌日。


 レオパード伯爵家次男レゾンド・レオパードがサイベリアム子爵家長男ダグラス・サイベリアムと一緒に供を伴ってメイクーン子爵家を訪れた。


 レゾンド・レオパードは三十二歳。金髪で大柄な体躯をしている。毛には斑らな模様が入っていて、豹を血統上の祖とするレオパード家らしい出立だ。

 兄のグレンティン・レオパードと共に父グラント・レオパードの補佐をしている。


「本日はこの度見つかったと噂の迷宮の入口へご案内頂けないかと思い伺いました」


 屋敷の中、広間に先遣隊のメンバーを待たせて、レゾンドとダグラスのみ応接室に入っている。


 先遣隊の中で最も地位の高いレゾンド・レオパードが挨拶をして、本日の用件を告げる。

 爵位を継いでいる訳ではないので、厳密には地位の高い順ではないが家を出ていなければ親の爵位に準じる扱いを受ける。


「いえ、こちらこそ。

 未だに領内は落ち着いていませんので少しでも魔物モンスターを倒して頂けると助かります」


 やはり、という思いを隠してアレサンド・メイクーン子爵が応じる。


「サラティ、シルヴィア、ここへ」


 対するアレサンド子爵の答えはこれだ。

 長女サラティと次女シルヴィアが前に出る。


 二人が応接室のテーブルの側に着いたところであるアレサンド子爵が二人について説明する。


「左が長女のサラティです。ヤンチャ娘で少し剣を嗜みます。右が次女のシルヴィア。こちらは少し魔法が使えます。我が領内で限られた戦力ですが昨日、迷宮に入っておりました。

 本日、ご指導頂ければこちらとしても助かりますので、宜しくお願いします。

 二人からも挨拶を」


 アレサンド子爵の紹介を受けて二人が挨拶する。


「長女のサラティ・メイクーンです。

 小さな頃に水影流剣術シャドウアーツの指導を受けました。本日は宜しくお願い致します」


「次女のシルヴィアです。

 少し魔法を使うことができます。迷宮には粘性捕食体スライムが出ます。

 他の方の魔法を見ることがありませんでしたので、是非拝見させて頂きたいと思っています」


 二人の挨拶を聞き、父のアレサンド子爵が顔を痙攣らせている。


 水魔術師でもあるレゾンドはシルヴィアの強気な発言に対してほぅ、と感心したように顎に手をやった。

 ダグラスはサラティに目を向けたまま固まっている。

 二十歳のダグラスは色々と言い含められているのだろう。サラティの一挙手一投足を意識するあまりシルヴィアの挨拶を全然聞いていなかったようだ。


「娘たちも迷宮に入りはしましたが、早々に戻って来ました。迷宮探索の途中でハクともはぐれてしまい、ハクは行方が分かりません。

 私も兵を率いて同行したいところですが、兵たちは負傷し、救助隊を編成したいのですがそれもままなりません。

 街の混乱が落ち着くまで、我が領からは兵を出せそうもない。

 力を借りるばかりで申し訳ないが、何卒、娘たちを宜しく頼みます」


 アレサンド子爵の話を聞き、レゾンドとダグラスが大きく頷いた。


「メイクーン子爵。必ずや我々がハク殿を助けて参りましょう」


 レゾンドとダグラスが順にアレサンド子爵と握手を交わして、部屋を後にする。


「私の魔法でよければお見せする機会があるかと思います。それでは参りましょうか?」


 レゾンドがサラティとシルヴィアをエスコートして広間に戻ると待機している部下を引き連れて迷宮へと向かった。






 迷宮へやって来たのは、レゾンドが率いるレオパード伯爵領軍から十名、ダグラスが率いるサイベリアム子爵領軍から五名、メイクーン領からサラティとシルヴィアの二名という布陣だ。


「中はいくつかの通路で構成されています。

 最初は様子を見て頂く必要があるかと思いますが、探索の際には、いくつかに分かれた方が良いかと思います」


 レゾンドはサラティの話を聞くと鷹揚に頷いた。

 横でダグラスも頷いている。二人には既に考えがあるようだ。


「今いる十七人を三隊に分ける。

 第一隊は私とダグラス、サラティ嬢とシルヴィア嬢にハインツとフォスターが入ってくれ。

 第二隊はエドワード、第三隊はシュトームにまとめてもらう。

 危険度を確認するために三戦目までは一緒に進むが、その後はマッピングを優先するので、指示はリーダーに従ってもらう」


 レゾンドが言うと三隊に分かれて先頭が第一隊になった。

 予め隊の編成を決めてあったのだろう。第二隊と第三隊もスムーズに別れていく。


 迷宮の中に入ってからも予定調和のようにスムーズに進んでいく。



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