第22話
迷宮の十階層。
長女サラティと次女シルヴィア、衛士隊のパックス、ロッジ、アデスの五人は
ハクが扉の向こうに行き、石の扉が閉まり始めたときは本気で暴れそうなサラティとシルヴィアだったが、パックスから予めハクが決めていたことだと聞かされると大人しくなった。
「まだかしら?」
「まだ開かないわ……」
実はハクが中に入ってからしばらくして、サラティが入口の扉を押して開くかどうか確認していた。
そのときからずっと、何回押しても入口の扉は開かない。
「本当におかしいわ。いつまで経っても開かないなんて」
「そうだけど、開かないと言うことはハクが中でまだ戦っている証明でもあるわ」
入口で待ってるサラティとシルヴィアの話しはそこからずっと平行線だ。
ハクが中に入ってから扉は開かない。
ハクに何かあれば扉も開くはず。
ハクに何かあった後もいつまでも扉が開かない訳がない。
扉が開かないと言うことは、今もハクが戦っている。
希望的観測だけど、他に合理的な説明が難しいのも確かだった。
誰かが中に入ったら一定時間、扉が開かなくなる、という可能性もあるが……。
それこそ、何でそんな仕組みにするのか、そんな理屈よりは誰かが挑戦してる内は開かない、という方が納得できるものだ。
「サラティ様、そろそろ当初の計画から一刻を過ぎ、更に延長した一刻も過ぎた頃かと存じます。
再度、街に戻ることのご検討をお願いします」
パックスの声にサラティがムッとする。シルヴィアも眉間に皺を寄せるが、ハクから指示を受けている衛士隊としては早期に撤退を判断してもらわないと、何が起きるか分からない。
ここは迷宮の奥深く。
ハク、サラティ、シルヴィアの力で到達することができたが、衛士隊の三人では到達することができない階層なのだ。
ここから領主の娘を連れて帰る義務がある衛士隊としては余裕がある状態ではない。
「分かりました。
では、ハクの手紙に従い撤退します。
先頭は私。ロッジとアデスがシルヴィアを護衛して続きなさい。殿はパックスです。
私たちは必ずまたここに来ます。それを忘れないように」
予めサラティとシルヴィアに宛てたハクからの手紙には時間が来たら撤退すること、街の状況を確認したら姉妹三人で手分けして援軍の受け入れ、街の住民への案内、迷宮攻略隊の編成をして欲しい旨が書いてあった。
撤退に続く次の指示があるから、サラティとシルヴィアは決断した。
一度決断したサラティとシルヴィアの行動は早い。
レイピアと火魔法で次々と
衛士隊の三人が付いて行くのも大変なスピードだった。
「「お父様、戻りました」」
サラティとシルヴィアが街に戻ったのは夕闇が降りて月が現れて頃だった。
「入れ」
父アレサンド・メイクーン子爵の声が響く。
父アレサンド子爵の寝室に入ると、寝室内に母ミーシャと三女スファルルの姿があった。
アレサンド子爵は執務姿だった。
領主が人前に立つときの簡易礼装だ。
体調が戻った訳ではなく、アレサンド子爵が対応しなければならない客があったということだ。
「サラティ、シルヴィア、ご苦労だった」
アレサンド子爵とミーシャ、スファルルはハクが一緒にいないのことを不安に思ったが、言葉にすることはなかった。
サラティとシルヴィアの決然とした表情が状況を伝えている。
「それでは話しを聞こうか。
スファルル、飲み物を用意してくれないか」
アレサンド子爵がサラティとシルヴィアに着席を促しつつ、一息つくように言った。
「それでは、本日の探索について報告させて頂きます」
サラティの報告は簡潔で、迷宮で手に入れた各種の
そして話しが十階層に到着したところまで進むと、急に報告が止まった。
「ハクは私たちを置いて、一人で戦いに行きました。
今も戦っています。
二刻弱の間、閉ざされた扉の前で帰って来るのを待っていましたが、まだ扉は閉ざされたままです。
明日には支援部隊を編成し、再度迷宮に潜りたいと思います」
サラティが断言してから、シルヴィアも大きく頷いた。
しかしアレサンド子爵は困った顔をして間を開ける。
「今日、西部の要たるレオパード伯爵家、および隣のサイベリアム子爵家から先遣隊が到着した。
合わせて二十五名と少人数だが、騎士と魔術師を含む精鋭部隊だ」
「お父様が想定されていた先遣隊ですね」
「そうだ。
しかし、想定よりも厳しい。
レオパード伯爵家からは次男のレゾンド・レオパードが、サイベリアム子爵家からは長男のダグラス・サイベリアムが出征して来た」
「それは、どういうことでしょうか?」
アレサンド子爵が厳しいと言った意味が分からずサラティが尋ねた。
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