第21話

「はぁ?」


 思わず目を点にして大口を開けてしまう。


 一方的に言うだけ言って、消えてしまった。

 何かもらえるのかと思ったら、消えてしまったのだからムカついても仕方ないだろう。


 左手の魔導書グリモワールに目をやると銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラが掴まっている。


収納庫ストレージ


 腕輪の収納庫ストレージを起動すると魔導書グリモワールをしまう。左手から|魔導書グリモワール》がスッと消えて足場をなくした銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラが空に飛んだ。


 銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラが飛んで、僕の左肩に止まるのを見ながら蜥蜴が言ってたことを思い出す。


 腕輪の収納庫ストレージ魔導書グリモワール銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラ

 銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラは試してないけど、収納庫ストレージ魔導書グリモワールだけでも凄い貴重な情報だ。


 それで、これからどうする?


 まぁ、蜥蜴が消えてしまったし皆と合流して一度戻るか。


 闘技場の入口を振り返るとと傾斜を登った先に扉がある。

 反対側にはいつの間にか新しい鉄の門がある。


 入口は石の扉、出口は鉄の扉。

 魔鉄亜人形アイアンゴーレムを倒したときは無かった気がするけど、その後でバタバタしてる内にできたんだろう。


 次からあの扉の向こうに進むことになる。

 ちょっとした覚悟を心に秘めて、坂道を引き返した。






 ……マジか?


 坂道を引き返して石の扉に着いたんだけど、石の扉が開かない。

 押しても、引いても開かない。

 ドンドン叩いても、何の反応もない。


 帰れない。


 休憩がてら斜面に腰掛けて闘技場を眺める。


 魔鉄亜人形アイアンゴーレムを倒したまでは良かったんだけどなぁ。

 銀色の蜥蜴が色々と説明してくれた最後、初回特典プレミアボーナスでおかしくなってしまった。


 初回特典プレミアボーナスの前までは銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラの話しだったのに。


 そう言えば、銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラの力はまだ試してないな。


 右肩に止まった銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラにお願いしてみた。


 助けてくれないか。




 プンッ、銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラが肩から飛び立つと僕の周りを一周してから下の闘技場の方へ飛んで行く。


 あっ!


 慌てて銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラを追いかける。


 闘技場の真ん中辺りに着くと、僕の左肩に戻ってきて止まった。


 肩に止まった銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラを見ながら、銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラが何をしようとしたのか考えてると、目の前の地面が淡く光った。


 光がゆっくりと強くなって、収まったときには光の中心だったところに金属の塊があった。


 鉄? いや、銀か?


 一辺が二十センチメートルほどの金属の立方体。

 銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラの力か。


 なるほど。

 五行、ごん属性の力。

 土生金どしょうごん。金属、鉱物は土の中から生まれる。銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラが土の中からごんを生み出したんだ。


 しばらくすると、金属ブロックの表面か結露し始めた。

 水が付いてる。


 金生水ごんしょうすい。金属がその表面に凝結によって水を生む。


 これも銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラが行ってるようだけど、直接金属を生み出したのとは違って間接的な能力に見える。

 だって、金属ブロックが生まれたときは淡い光があったのに、今は光がなかった


 再び銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラが僕の肩から飛び立つと、出口の鉄の扉に向かった。

 素早く金属ブロックを収納庫ストレージにしまい、後を追う。


 銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラは一直線に出口に進む。


 出口の鉄の扉に止まると、僕を待っていた。


 出口の扉は入口の扉をそのまま鉄にしたと言っていい。大きさも同じで高さ三メートルほど、両開きで両方の扉に波型の紋様と二匹の蜥蜴が彫られている。


 尻尾を上にして下を向いた蜥蜴が力の象徴に見えると言うと褒め過ぎだろうか。

 扉に掘られた蜥蜴の方が大きいんだけど、初回特典プレミアボーナスをくれた銀色の蜥蜴の姿に重なる。


 扉の前に立つと銀の黄金虫アルゲントゥ・ミネラが僕の肩に乗ってくる。


 そうだよな。


 戻れないなら、進むしかない。


 ここに迷宮ができたときから、前に進むしかない。


 鉄の扉をゆっくりと押し開き、闘技場の外に出た。


 蜥蜴の遣り口が勘に触るが、進んでやるさ。



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