第18話

 十階層の一本道。

 その先に現れた石の扉。

 二匹の蜥蜴が彫られた扉の向こうに階層主フロアマスターがいる。


「この先に階層主フロアマスターがいると思われます。

 この先で得られる神授工芸品アーティファクトの可能性と、この先で全滅するリスク。

 ここで皆んなには引き返してもらいます。

 一番可能性の高い僕が一人で挑戦します。

 一刻の間ここで待機して、僕が戻らなければ街へ戻って下さい。

 その場合、他領の力を借りて迷宮の破壊を優先して下さい。

 それでは、行ってきます」


「「えっ??」」


 僕が扉を押して中に入る。

 サラティ姉さんとシルヴィア姉さんが一緒に付いて来ようとするけど、衛士隊の三人が扉の前に立ち塞がり押し留めた。


「ちょっと、ハク!」

「待って!」


 衛士隊に準備させてて良かった。

 そうでなければ、姉さんたちが一緒に入って来てただろう。


 今朝から階層主フロアマスターとの戦いで、逃げられなくなる可能性を考えていた。

 十階層に階層主フロアマスターがいることはほぼ確定している。その上で、今避けなければいけないのは全滅。


 逃げ道があるようなら全員で戦おうと思っていたが、扉で閉ざされていた。

 閉じ込められる可能性があるので全員での戦闘は諦めた。

 しかし、どんな魔物モンスターか確認もせずに帰るのは惜しい。

 だから、僕一人で戦う決断をした。


 サラティ姉さん、シルヴィア姉さん、どちらも危険に晒す訳にはいかない。


 予め衛士隊の三人には、途中の階層や階層主フロアマスター戦で危ないときは姉さんたちを守って街へ戻るように指示してある。

 今回はその指示通りにしただけだ。


 扉の向こうは直径二百メートルはありそうな闘技場になっていた。

 すり鉢状に落ち窪んだ斜面の先にバスケットコートが四面は広げられそうな円形の平らなスペースが広がり、中央に体格の良い亜人形ゴーレムが三体、直立して待っている。


 亜人形ゴーレムの体は銀色に輝き、艶やかな表面を持っている。

 あれは、魔鉄亜人形アイアンゴーレムだ。


 斜面を降りていくと、扉がゆっくりと閉まる。

 やはり、簡単には逃してくれないようだ。


 魔鉄亜人形アイアンゴーレム魔石亜人形ストーンゴーレムよりも体格が良く、身長は三メートルはある。

 近付くにつれ、もの凄い重量感を感じる。

 ちゃんとした姿勢で立っているので、速さは分からないが直立二足歩行をするのだろう。


 斜面を降りきったところで魔鉄亜人形アイアンゴーレムが動き出した。

 これまでの魔石亜人形ストーンゴーレムとは動きの速さ、精度が違う。

 滑らかに速く動く。


 三体は横に広がり僕を包囲しようとした。


 先手必勝!


 包囲されないように左の一体に向かって駆け出すと大きくジャンプしてその頭に蒼光銀ミスリルの長剣を叩きつけて、かち割った。


 頭を割られた魔鉄亜人形アイアンゴーレムが前に向かってつんのめると、そのまま転んで動かなくなる。


 魔石亜人形ストーンゴーレムと同じように頭が弱点みたいだ。

 魔石亜人形ストーンゴーレムと同じで助かった。

 三メートルもある鉄の巨人とやり合ったら体力がどれだけあっても足りない。


 でも、頭が弱点ならやりようがある。


 倒れた魔鉄亜人形アイアンゴーレムの側で残りの二体が近付いて来るのを待つと、軽くリズムを取った。


 中央の一体が寄って来たら助走をつけて、倒れた魔鉄亜人形アイアンゴーレムを踏み台にして高く飛ぶ。

 助走と踏み台があれば魔鉄亜人形アイアンゴーレムの頭ぐらいは簡単に狙える。

 動きが速くなったとは言え、亜人形ゴーレムと獣人では速さが違う。アッサリと頭を潰した。


 囲まれて、動きを止められるなければ問題ない。


 最後の一体を時間をかけずに頭を割って勝負を決めた。




 ……さて、これからどうなる?

 次の敵が現れるか、どこかの扉が開くか?


 周囲の様子に注意を払っていると、闘技場の中央に光る球が現れた。

 光の球はしばらく光った後、光を弱くしながらゆっくりと地に落ちる。


 落ちた場所には宝箱が残された。


 おっ! これは凄い?


 宝箱に近寄ると、一瞬躊躇ったけど注意して丁寧に箱を開けた。

 トラップを解除するスキルがないので今のところ、全力で躱すしか方法がない。


 幸いなことにトラップはなかった。


 宝箱の中には一冊の古ぼけた本が入っている。


 本をパラパラとめくって見たけど、中は真っ白で何も書いてない。

 ……何の本なんだ?

 それか、読むのに特別な何かが必要なのか?




 もう一度最初のページから本を見直してると、再び光の球が現れた。

 僕の身体の前、五メートルほど先に光の球が現れたので本を左手に持ち、右手で蒼光銀ミスリルの長剣を構えた。


 光が収まると、空中に銀色の蜥蜴が浮いている。


 何だ?



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