第16話

 ぐっすりと眠った僕は朝からパーティを組んで迷宮にやって来た。

 フォルス兄さんとリック兄さんはまだ目を覚さないけど、傷口が塞がり呼吸も落ち着いてきたので少し安心できた。


 今日のメンバーはレイピアを装備した長女のサラティ姉さん、次女の魔術師シルヴィア姉さん、衛士隊からパックス、ロッジ、アデスの三人、そして僕だ。


「ハク、何かあれば私を頼っていいからね」


「サラティ姉さん、迷宮に入る前から何言ってるんですか?

 私の魔法とハクの剣技があれば大丈夫ですから今日は大人しく私の後ろを付いて来て下さい」


「いや、私は騎士だ。ハクと共に前を歩いて魔物モンスターを排除するぞ」


「そうは言っても道順も知らないじゃないですか?

 今日は昨日よりも深く潜るので余り寄り道はできないです」


「ぐぬぅ……」


 サラティ姉さんとシルヴィア姉さん、二人の会話に割って入ったら逆に炎上してしまうので、聞こえないフリをして先頭を歩いてたけど、何とか治まったようだ。


「今日は最初に蒼光銀ミスリルの短剣で粘性捕食体スライムと戦ってみます。

 腐食具合を確認して粘性捕食体スライムとの戦い方を検討します。

 先頭は僕、次にロッジにアデス、サラティ姉さんとシルヴィア姉さんで、殿がパックスです。

 サラティ姉さんは魔法を使うときのシルヴィア姉さんを守ってあげて下さい。

 シルヴィア姉さんは道順についてサラティ姉さんをフォローして下さい」


 昨日よりも緊張気味の衛士隊の三人が姉さんたちと隊列を組むと迷宮に入った。


 衛士隊の三人からすると、長女のサラティ姉さんは厳しい上司なので動きがぎこちない。

 昨日は回避して探索を優先したけど、サラティ姉さんが見るからに戦う気満々なのも一因だろう。衛士隊としては気が抜けない。


 早速粘性捕食体スライムを見つけたので、蒼光銀ミスリルの短剣で核を突いて倒す。


 粘性捕食体スライムがその形を崩して溶け、地面に消えた。


 蒼光銀ミスリルの短剣は一切傷ついていない。腐食の気配もない。

 流石は蒼光銀ミスリルと言うべきか。

 鉄と蒼光銀ミスリルの違いは驚くほどだ。


蒼光銀ミスリルなら大丈夫そうです。

 やり過ごす場合は別として、粘性捕食体スライムを倒すときは蒼光銀ミスリルの剣も有効に使いましょう。

 ということで、蒼光銀ミスリルの短剣はシルヴィア姉さんにも渡しておきます。

 危険なときには躊躇わずに使って下さい」


「えっ? いいの?」


「はい。僕が持っていても余り変わりません。

 僕には蒼光銀ミスリルの長剣がありますし、サラティ姉さんはレイピアを持ってますので、短剣はシルヴィア姉さんが使って下さい」


 蒼光銀ミスリルの短剣を渡すとシルヴィア姉さんがしみじみと握りしめてる。


 蒼光銀ミスリルの武器は少しでも有効に使おうと思っただけなんだけど、シルヴィア姉さんには何か思うところがあるみたいだ。


「ありがとう。

 魔法が追いつかないときには短剣で戦う」


「はい。でも、あまり無理はしないで下さいね」


「もちろんよ。ふふふっ」


 シルヴィア姉さんが短剣を腰に下げると微笑んだ。




 それから一気に迷宮を突き進む。

 シルヴィア姉さんの魔法と蒼光銀ミスリルの武器があると粘性捕食体スライムは敵じゃない。

 回避できそうなときは回避し、難しいときはサクッと撃破して進んだ。


 衛士隊の三人に荷物を持ってもらい、道は僕たちが切り開く。

 道順も分かっているので昨日よりもかなり早く五階層に到着した。




 昨日は迷宮の実態を調べ、今後の対応を考えるための調査だった。

 今日は限定特典リミテッドボーナスを手に入れるため。


 メイクーン領をこれから復興させる必要がある。

 昨日弔った五十人の兵士。崩れた家。荒れた畑。


 僕たちが一階層進むことで宝が手に入るなら、一階層でも深くまで潜る。

 今やらなければ、明日にでも近隣の援軍が迷宮に潜るだろう。そうなったら限定特典リミテッドボーナスはその援軍の人たちのものになってしまう。


 今日は、行けるところまで潜る。

 それが僕たちの役割だ。



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