第15話

 父さんに迷宮探索の結果を報告していると長女のサラティ姉さんが会話に入ってきた。


「あの、お父様、宜しいですか?」


「ああ、サラティ、言いたいことを言ってみよ」


「私にレイピアを使わせて頂けませんか?」


「うん? どうした、急に?」


「いえ、私も蒼光銀ミスリルの剣が羨ましくて……。

 それに、レイピアの使い手が必要だとしても衛士隊の兵に蒼光銀ミスリルのレイピアを下賜する訳には参りませんでしょう?」


「しかし、サラティは一の姫だ。

 危険なことをさせる訳には……。

 フォルスとリックが目を覚まさない今、サラティに危険なことをさせる訳にはいかないのだ」


「それはシルヴィアも同じでしょう?」


「シルヴィアの場合は粘性捕食体スライムに対して有効な手立てがシルヴィアの魔法しかないからだ。

 魔法を使えるものがシルヴィアと教会のリリエッタしかおらん上にリリエッタは治癒魔法だからだ」


「それは亜人形ゴーレムに対しても同じではありませんか?

 剣の使い手で蒼光銀ミスリルのレイピアを渡しても良い者。仮にレイピアを壊しても責任を問わずに済む者でなければ蒼光銀ミスリルのレイピアを使えませんわ」


「そうは言ってもなぁ……。

 ハクよ、どう思う?」


 何でそこで僕なんだ?

 心の第一声はそれだったけど、この流れではサラティ姉さんを止められない。


限定特典リミテッドボーナスのためには仕方ないかと思います。

 今日は他領から到着された方はおられませんが、明日には到着されるかも知れません。

 既に近隣でこの街の様子を確認されているかも知れません。

 もう少し強力な神授工芸品アーティファクトになる可能性もあります」


 サラティ姉さんがやたらとニコニコしながらプレッシャーをかけてくる。

 しかし、父さんも怖い顔で睨んでくるし……。


「……試しにサラティ姉さんにレイピアを少し振ってもらいませんか?」


 一応、父さんの意向を反映して些細な抵抗をしてみることにした。


 父さんが少し機嫌を良くする横でサラティ姉さんはもっと機嫌が良くなってる。


 これは、かなり自信を持ってる。というか一度握ったら離さないんじゃないか?


「そうですわね。ひょっとして私に合わないかも知れませんし、或いは想像以上にしっかりと馴染むかも知れません」


 そう言うと父さんの寝台の横に出してあるテーブルからレイピアを手にした。


 寝台から離れると扉の側でレイピアを抜いた。

 刀身は全体的に白銀に輝いている。片手剣に見られる蒼白い感じとは違う。

 柄元に重心があるのだろう。非常に軽やかに刀身を振って一瞬で伸びるような突きを放った。


 おぉー。


 明らかに父さんの負けだ。

 あの突きを見て、他の誰かにレイピアを渡すとは言えない。


 そうなると後は盾と腕輪か。

 盾は小型の丸盾。腕輪は幅広で少し厚みがある。


 サラティ姉さんには丸盾は重いかと思ったけど、持ってみると案外軽い。長時間になると負担が大きそうだから難しいかな。


 腕輪は防具なのか、アクセサリーなのか?

 幅広なので女性がしてるとゴテゴテして目立つかも知れない。細工が細かいけど装飾用とは思えないし何となく使う人を選びそうだ。

 試しに着けてみると、軽くて違和感はない。


 が……、外そうとしても外れない。


 何だこれ?


 軽い気持ちで着けたら外れなくなった。

 サイズがピッタリ過ぎたみたいだ。


「……父さんすみません。外れなくなりました。

 この蒼光銀ミスリルの腕輪は僕がしててもいいですか?」


 サラティ姉さんのレイピア捌きに言葉を失っていた父さんが僕の腕を見た。


「あ、あぁ。……分かった。

 蒼光銀ミスリルの長剣と腕輪はハクが使い、レイピアはサラティが使うこととする。

 短剣はハクが持ち、状況により使い分けよ。

 二人とも二刀で戦えるかどうかも分からぬし、場合によってはシルヴィアが持った方が良い場合もあるだろう。

 明日も衛士隊を連れて迷宮の探索を頼む。良いな?」


「「「はい」」」


 僕とサラティ姉さん、シルヴィア姉さんの声がシンクロした。

 三女のスファルル姉さんが少し拗ねてるけど、流石にスファルル姉さんまでは連れて行けない。

 明日、何かいい神授工芸品アーティファクトが見つかるといいけど。



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