第13話

「どうする? ここで引き返す?」


 シルヴィア姉さんの質問に対して、少し考える。

 ここまで順調に探索を進めて来た。貴重な神授工芸品アーティファクト蒼光銀ミスリルの長剣を拾ったし充分な気もする。

 しかし、まだ粘性捕食体スライム以外の魔物モンスターには遭遇しておらず、この迷宮の危険度を判断しかねる。


「もう少し進みましょう。

 何か他の魔物モンスターが現れるまでは危険は少ないと思います」


「分かった。私の魔法はまだ試していないけど、そろそろ試してみる?」


 シルヴィア姉さんの声がちょっと上ずっている。

 初めて見る粘性捕食体スライムに魔法が効くか試したいのだろう。


「……うーん。もう少し様子を見ましょう。

 魔力には限りがありますし、試すだけなら戻るときにリスクの少ない場所でも試せますから」


「そう……。そうね。分かった」


 シルヴィア姉さんの顔は残念そうだけど、迷宮内で何が起こるか分からない。安全策を取ることにした。




 街に残っている父さんたちはどうしてるだろう。

 僕が街に残っていたら、これまでのこと、これからのことを色々考えてしまい答えのない問いを繰り返しているような気がする。


 こんなことを考えるなんて、順調に進んでいて気が抜けたのだろうか?


 今、未知の迷宮を進み身体を動かすことができて良かったと思う。

 新しい刺激を受けて前に向いて歩くことができるから……。

 腰に下げた、新しく拾った蒼光銀ミスリルの長剣の重みを感じながらそんなことを考えていると下り坂に到達した。




 三階層。

 一階層と二階層は粘性捕食体スライムしかいなかった。歩いた距離は共に三キロメートル程度。

 未だに粘性捕食体スライムしか出会ってないのだから、迷宮探索の序盤なのだろう。


 しかし、こんな最初の階層でさえ蒼光銀ミスリルのような貴重レア神授工芸品アーティファクトが湧いている。

 恐るべし迷宮。

 資源の宝庫と言われても納得せざるを得ない。


 三階層になってから色の違う粘性捕食体スライムが現れ始めた。

 一階層、二階層だと水色だけだったけど、薄い緑色や茶色の粘性捕食体スライムをたまに見かける。

 粘性や属性が違うと思うけど、戦うつもりはないので無視して進む。


 三階層はより広い空間が続くようになった。

 端の方まで見通せないので、どの方向に進めば道が続いてるのか分からない。広間の中央に何があるのか気になるけど、迷子になっては困るので右の壁に沿って先に進む。


「そろそろ休憩を考えたいので次の広間に入ったら周囲を確認して、粘性捕食体スライムのいない場所で休みましょう」


 先頭を歩きながら声をかける。

 と、目の前に丁度開けた場所が見えて通路部分から中を覗いた。


 粘性捕食体スライムが二匹いるだけの小さな空間。


「シルヴィア姉さん、魔法で粘性捕食体スライムを倒せますか?

 二匹なので、倒せたらここで休憩します」


「もちろんいけるわ」


 通路の影で粘性捕食体スライムの様子を伺いながら、杖を構えたシルヴィア姉さんが詠唱を始める。


「火の神ヴェスタよ、我が願いに応えよ。

 我が力に汝の力を貸したまえ。

 我が願うは炎の顕現。

 我が敵を燃やし尽くしたまえ。

 火炎槍ファイアランス!」


 シルヴィア姉さんが杖を突き出すと、長さ三メートルほどの巨大な炎の槍が宙に現れ一匹の粘性捕食体スライムに向かって豪速で打ち出された。


 炎の槍が粘性捕食体スライムの核に突き刺さり、粘性捕食体スライムを燃え上がらせる。


 僕は念のため通路から中に入りシルヴィア姉さんを守って鉄の片手剣を構える。

 姉さんがすかさず次の詠唱を始めた。


 粘性捕食体スライムの動きは遅いまま。

 ゆっくりとズルズルした動きで近づいてくる。


「……火炎槍ファイアランス!」


 詠唱の部分がよく聞こえなかったけど、先ほどと同じように炎の槍が粘性捕食体スライムの核を貫き燃え上がらせる。


 片手剣を構えたまま粘性捕食体スライムに向き合いしばらくすると炎が消え、粘性捕食体スライムの身体が地面に溶けていった。



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