第11話

 寝室にいた父さんは昨日よりも少し顔色が良くなっている。怪我が深刻な状況にならずに済んだようだ。

 母さんはかなり精神的に参ってそうなのでそっちの方が心配だ。


「皆、朝からすまないな。

 昨日の状況を受けていくつか話しておきたいことがある」


 父さんが皆んなの顔を見まわしてから早速話し始めた。


「まずは迷宮について四点。

 一点目は迷宮は倒すことができる」


 母さんを除いて皆が父さんの話しにギョッとして身構えた。聞いたことのない話しで、かなり重要度の高い極秘情報だと感じたのだ。


「迷宮の最奥には迷宮主ダンジョンマスターがいて迷宮核ダンジョンコアがある。

 迷宮において最強の者が迷宮主ダンジョンマスターなのだが、それを倒し迷宮核ダンジョンコアを破壊すれば迷宮は壊れる。


 二点目。倒すことのできる迷宮だが、上手く活用すれば莫大な資源を得ることができる。

 迷宮からは魔晶石エーテルを採掘することができるし、地脈を通じて神授工芸品アーティファクトが湧き出ることもある。

 魔物モンスターの素材を得ることもできる。

 魔物モンスターを倒すことができれば、つまりリスクを封じるだけの軍事力があれば、活用できる資産になる。


 三点目。迷宮は成長する。

 今は小さな迷宮でも地脈と通じる内に成長する。そもそも力のある地脈の上に迷宮ができると言われている。

 どれほどの速さで成長するかは誰も分からん。

 成長すればより貴重レア神授工芸品アーティファクトが湧き出るし、もっと強力な魔物モンスターが蔓延るようになる。


 四点目。最後になるが、今回の集団暴走スタンピードのようなリスクがあっても、蒼光銀ミスリルのような貴重レアなアイテムを求めて、この地が争いの場になる。

 自らの力で迷宮を管理できればその恩恵を受けるし、自らの力で管理できないのならば早期に壊す必要がある。

 迷宮を管理しようとすればその利権を求める者が集まる。またはその利権を無くそうと迷宮を破壊しようとする者が集まる。

 力がない場合はこの地が魔物モンスターに飲まれる前に、他の貴族に縋ってでも迷宮を破壊してもらわねばならぬ」


 父さんはゆっくりと皆の理解を確認しながら一気に話し終えた。


 全てが知らない話しだった。


 確かに迷宮都市と呼ばれ長い歴史を持っている都市もある。

 歴史書では集団暴走スタンピードに飲まれた都市の伝説もある。


 ただ、それが目の前に現れたとき、どう立ち向かえと言うのだろう?


 昨日の集団暴走スタンピードでかなりの被害が出た。街の皆んなが大勢亡くなったし、フォルス兄さんとリック兄さんも重体だ。父さんも深傷を負った。

 しかも、迷宮は育つと言う。

 そして、その迷宮が色んな思惑を集める。


 メイクーンのような小さな街一つで何をどうしろと言うのか?


集団暴走スタンピードが起きたことは早々に周囲の街に伝わるだろう。

 周囲の街や都市からは集団暴走スタンピードの被害を確認し、さらなる被害を食い止めようと兵たちが集まることになる。

 ハクよ。

 まずは何人かの兵士を連れて迷宮の状態を探るのだ。

 今戦えるのはお前しかいない。

 兵士長からの話しでも、魔物モンスターに対抗できるのはお前しかいない。

 明日か明後日には近隣の街から先遣隊が到着する。この街の被害を確認した後は必ず迷宮探索が行われる。

 そこで神授工芸品アーティファクトの奪い合いが起きるだろう。

 その前に少しだけでも状況を確認してきてもらう。

 お前が持ち帰る情報が今後のメイクーン領を左右する。

 但し、ハクの身に何かあってはメイクーン家そのものが続かない。無理をせずに必ず戻ってきて欲しい」


 父さんは僕の目を見てゆっくりと頭を下げた。



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