第10話
昨夜は眠れなかった。
フォルス兄さんとリック兄さんが重体で動けない。
リック兄さんも屋敷に移動したけど、二人ともまだ意識を取り戻していない。
フォルス兄さんと十三歳、リック兄さんとは十一歳違いでなかなか話す機会はなかったけど、毎日朝昼晩と一緒に食事をしたし、たまに
フォルス兄さんは、花が綺麗だったから、と言って屋敷の花畑をメチャメチャに散らした僕に対して、我儘もいいけど人の嫌がることはしちゃダメだ。と言って腕を強く握りしめてきたこととか、もう一回やって、と投げ飛ばされるのが楽しくて何度も何度も背中に飛び乗った思い出が次から次へと溢れてきた。
リック兄さんは僕のお肉とか僕の果物をすぐに取っていこうとするので、警戒しながら食べなきゃならなかった。
リック兄さんの方がたくさん食べてるのに、何で人の物を欲しがるのか分からなかったけど、残すと勿体ないだろ、と返されては、これから食べるところだったのに、とやり合ってばかりだった。
そして昨日感じた身体の変化。
どうして急に片手剣を振り回し、更には
急に身体が熱くなり、力が溢れた。
そして剣を振って
何故、急にそんなことができるようになったのか分からず、頭から離れずに眠れなかった。
朝が来ていつもと同じ時間に食堂に入ると、既に三人の姉さんたちが座っている。
「おはようございます。ちゃんと眠れた?」
サラティ姉さんが充血した目で聞いてきた。
多分眠れなかったんだろう。
「あまり眠れませんでした。
色々なことが整理できなくて……」
「そうよね。私も眠れなかったし……。
でも、ハクは昨日かなり無理をしたはずだから休まないと駄目よ」
力なく言ったサラティ姉さんは自分にも言い聞かせているようだ。
「兄さんたちは?」
「意識はまだ戻らないけど、呼吸が安定してきたから大丈夫。
きっとすぐに目を覚ますわ」
サラティ姉さんが言うと、スファルル姉さんが話を変えた。
「それはそうと、あの短剣と片手剣は?」
スファルル姉さんが顔色を伺って心配しつつも聞いてきた。興味津々だ。
昨日は腐食した片手剣の方が気になってるようだったけど、剣に興味がないスファルル姉さんでも
「もちろん持ってきました。
どうぞご覧下さい」
サラティ姉さん、シルヴィア姉さん、スファルル姉さんの順で並んで座ってるテーブルに置くと、三人は顔を寄せながらも触ろうとせずに観察してる。
「触っても?」
「どうぞ、大丈夫ですよ」
サラティ姉さんの問いに軽く返すとサラティ姉さんが手を伸ばす。スファルル姉さんも触りたそうだけど、サラティ姉さんを立てたみたいだ。
短剣を手に取って丁寧に鞘から抜いた。
剣を扱い慣れているのが所作から分かる。
「綺麗な刃だ。艶やかというのか、鉄剣の冴えた感じとも違うな」
「姉さん、私も触らせてっ」
スファルル姉さんが我慢できなくなってシルヴィア姉さんの前に身を乗り出してにじり寄ってる。
圧に押されてサラティ姉さんが短剣を渡そうとするけど、今度はスファルル姉さんが短剣をどう持とうかと躊躇っている。
危なっかしく感じたサラティ姉さんが鞘に戻して渡そうとする。
「皆さま、アレサンド様がお呼びです。
寝室でお待ちですので、ご用意をお願いします」
父さんは朝食時に僕たちが揃うのを待っておられたのだろう。家令のシャッテが呼びに来た。
「あうぅ……」
スファルル姉さんが残念な声を出してるけど、気づかない振りをしてサラティ姉さんから短剣を受け取り、父さんの寝室に向かった。
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