第9話
迷宮を後にして静まり返った街に入り屋敷へと進むと、屋敷の入口でシルヴィア姉さんとスファルル姉さんが膝を抱えて蹲ってる。
「ただいま。遅くなってごめん」
二人は顔を上げると泣き出して抱きついて来た。
「心配したんだよ」
「ハクにまで何かあったら……」
「ごめん。遺体を探してる内に森の奥まで入ったみたいで……」
しゃがんで僕を抱き締めている二人に僕も手を回した。
僕の身体は冷え切っていた。三人で抱き合っていると、二人の温かさが身に染みた。
「父さんは休んでおられるかな?」
「どうしたの?」
「多分まだお休みになられてないけど……」
「伝えなきゃいけないことがあるんだ」
「そう」
「多分お母様も姉さんもお父様の寝室よ」
「うん。シルヴィア姉さんもスファルル姉さんも一緒に来て欲しい。少しでも早い方がいい」
そう言って二人を立たせると屋敷に入った。
屋敷の中も静まり返ってる。
静かな屋敷の中を三人で急いだ。
「夜分すみません。父さん、起きてますか?」
「ハクか? 儂は起きている。
気にせずに入って来い」
寝室の前に立ち声をかけるとすぐに返事があった。
寝室の中には母さんとサラティ姉さんがいる。
疲れた顔をしている。
父さんの眼光は鋭いままだけど、母さんが参っているようだ。サラティ姉さんが飲み物を用意し始める。
「ハク、何処へ行っていたの?」
母さんが弱々しい声で聞いてきた。
「ご心配をおかけしてすみません。
遺体を弔っている内に森の奥まで入ってしまって……」
「ハクにまで何かあったら……」
「すみませんでした」
母さんに泣かれるとどうしようもないな。
確かに、今朝までの僕ならこんな時間に森を歩き回ったら危なくて仕方ないし。
「ミーシャよ、無事に戻ったのだ。
お小言はまた今度だな。
それよりも慌てているようだが、どうした?
何かあったか?」
「すみません。いくつか報告があります。
まずは今回の
「何!?」
父さんが驚いて声をあげてる横で、母さんとサラティ姉さんも息を飲み身を強張らせる。
「森のかなり奥です。
木々が倒れ森が壊れていたので、
「しかし……」
父さんが困惑した顔でまだ結論には早いと言葉を繋ごうとする。そこで僕は腰から短剣を外した。
「この短剣をその迷宮で拾いました」
「これは!」
父さんは僕から短剣を受け取り、鞘から抜くと目を見開いた。
その刀身の美しさを認めると、目の前でゆっくりと反りや歪み、傷がないか調べた。
大きな息を吐くと、短剣を返してくれた。
「見事な短剣だ。恐らく
父さんが
「迷宮は洞窟と違い中が薄明るかったです。
土壁自体が少し明るいようでした。
内部には
一匹、倒しましたが片手剣が少し腐食しました」
短剣に続いて父さんに片手剣を渡す。父さんは片手剣を抜くと同じ要領で調べ始め顔を顰めた。
後ろではスファルル姉さんが、
スファルル姉さんは
「今まで我が領内で
それが何匹もいたのか?」
「はい。私が見て回ったのは一階層の極一部ですが、それでも十匹程度は遭遇しました。残念ながら一匹目で苦労したのでそれ以降は回避して見て周り、小さな広間で落ちていた短剣を拾いました」
「箱や仕掛けはなかったか?」
「はい。特にありませんでした。
そのまま無造作に落ちていたので拾い、持ち帰りました」
「そうか、迷宮が……。
我が領内に……」
父さんは片手剣を僕に返しながら呟いた。
サラティ姉さんが
「このことは秘密にするように、明日の朝改めて皆に今後のことを話す。
それまでは時間が短いが皆、しっかりと休むように。
また、短剣は明日までお預けだ。
今宵はハクを休ませてやれ。短剣は明日見せてもらえ。
今晩は解散だ」
姉さんたちが残念な顔をしたけど、その場は解散し父さんの寝室を後にした。
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