第8話

 偶然見つけた洞窟は迷宮だった。

 歩いて中に入ると周囲の土壁が淡く光っている。

 ……警戒のため松明を消してから知ったけど。


 迷宮……。

 魔物モンスターの巣窟。魔晶石エーテルの宝庫。

 場合によっては神授工芸品アーティファクトが見つかることもある。

 命の危険と隣り合わせだけど一獲千金の夢が叶う場所。

 多くの場合、地脈の力の強い場所にできるらしい。


 入口の辺りは何も感じなかったけど、奥に進むに従って空気が張り詰める、というか何かがヒリヒリと皮膚を刺激する。


 知らず知らずの内にニヤけていた。

 思わず微笑んでしまうような緊張感がある。


 得体の知れない力に引かれてこの迷宮に辿り着いた。

 偶然見つけたのではなく、必然だったと分かる。


 抑えきれない興奮で叫びそうになるけど、口をつぐみ息を潜め足音を忍ばせて無音で進む。

 元々音を立てずに行動するのが得意なメイクーンの一族だ。少しでも闇に紛れるようにして、淡く照らされる通路の端を歩いて行くと水色のブヨブヨとした丸い液体のような物体があった。

 高さは八十センチメートル、横幅はニメートルを少し超えるぐらい。


 何だ?


 奇妙な物体を見つけ好奇心が躍る。

 そしてゾクリと警戒心も上がった。


 しばらく様子を見ているとブヨブヨした物体がズルりと動いた。


 粘性捕食体スライム


 今まで見たことが無かったけど、有名な魔物モンスターだ。

 柔らかい体をしているため衝撃を吸収しダメージが通りにくいので物理攻撃に強く、魔法に弱い。


 くっ! 厄介だ。


 小手調べと思い片手剣で切りかかったけど、刃が弾かれ剣が流れる。

 半透明なので中に見える核を捉えれば倒せるはずなのだけど……。


 2、3回片手剣を叩きつけてみたけどダメだ。剣を振り回すような戦い方では倒せない。


 バックステップして距離を取ると、一拍、片手剣を正面に構え直して一直線に突きを放った。


 ズブリ。


 片手剣の切っ先が粘性捕食体スライムの核に届くと一気に粘性捕食体スライムの体がパシャンと崩れた。


 はぁ。


 何とか倒せた。

 崩れた粘性捕食体スライムは溶けるようにして地面に消える。

 剣先を見ると少しザラついている。

 粘性捕食体スライムの体液で少し剣が腐食したようだ。


 何とも面倒な敵だ。


 あまり会敵しないことを願いつつ先に進む。


 一人で歩きながら、動きの遅い粘性捕食体スライムは無理に倒す必要はないか、と思いついたので様子を見つつドンドン先に進む。




 何度か粘性捕食体スライムをやり過ごし、分岐を適当に進んだ先で小さな広間を見つけた。


 慎重にその空間に入ると、端の方にキラリと光る物がある。


 何だ?


 近付いてみると、綺麗な短剣が落ちていた。

 何故、こんなところに短剣が?

 不審に思いながらも拾い上げて、鞘から抜くと薄い蒼色の刀身をしてる。

 出来の良い短剣だ。よく斬れそうな美しい刃を確認して鞘に仕舞うと腰に括り付ける。


 キリがいいので、この辺にして一度帰ろう。

 他にも何かないか調べたいけど、遅くなると皆が心配する。

 気持ちを切り替えて迷宮を後にすることを決めた。


 帰り道にも粘性捕食体スライムがいるけど戦わずに回避して来た道を戻る。


 サラティ姉さんにしごかれた経験が活きてる。

 粘性捕食体スライムほどの遅さなら問題なく回避できる。

 ちょっとだけ姉さんに感謝しながら道を急いだ。




 迷宮を出ると夜になっていて真っ暗だったので、夜の暗さに戸惑う。

 ……迷宮内の方が明るかった。

 松明を消していても魔物モンスターを識別できる程度の明るさがあった。


 しかし迷宮を出ると雲のかかった月明かりのみだ。

 遠くには平原の篝火が見えるけど、足元は暗い。


 足元に注意しながら街へと急ぐ。




 既に平原にはほとんど人がいない。

 供養が一段落したのだろう。そこかしこに遺体を並べた穴を見て、虚無感が襲ってくる。

 その虚無感、二人の兄さんの声がフラッシュバックし足取りを重くした。


 それでも、僕を心配してるだろう父さん、母さん、姉さんたちを想い、懸命に足を動かす。



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