第5話

 何?


 街が光り輝いて、街を守る木の柵を光の幕が包んだ。

 防御壁?


 続いて街を囲うように何発もの火柱が魔物を燃やした。

 何かの魔導具とシルヴィア姉さんの火魔法だ。

 魔道具は母さんかスファルル姉さんが扱ったんだろうか。

 あんな非常識な大規模魔法は見たことない。


 ふふふっ。

 つい笑ってしまう。


 さぁ、こっちももっと回転を上げようか。


 次々と巨大猪ヒュージボアの足を切り落とし動きを止めていく。

 力は溢れて来るけど、所詮八歳の子供だ。背が届かないから仕方がない。

 それでも父さんが良い片手剣を持たせてくれて良かった。片手剣は折れることなく巨大猪ヒュージボアの硬い毛皮を切り裂き脚を折っていく。


 剣を力任せに振り回していると、倒れ込んだ巨大猪ヒュージボアの向こうに騎馬に乗った父さんが見えた。


「父さん!」


「おお! ハクか? 見違えたぞ」


「それよりも父さん、怪我が……」


 父さんの背中は服が裂けて血が滲んでいる。


「これぐらいは問題ない。それよりもこのまま街を守り切るぞ! 今戦わなければ明日はない!」


「はいっ! しかし、一度状況確認が必要です。

 父さんは下がって下さい。

 フォルス兄さん、父さんを頼みます。

 僕はリック兄さんと合流します」


「分かったよ、ハク。

 父さん、私が殿しんがりを務めるから一度下がろう。

 兵士が散り過ぎるのは良くない。一度立て直す」


 流石はフォルス兄さん、周りを良く見てる。

 父さんを宥めながら無理せずに引けそうだ。


 メイクーンの人口は一万人。こんな非常事態でも出せる兵はせいぜい二百人。街にはまだ大勢の人がいる。

 今は殲滅よりも守るときだ。


「ハク! リックは南にいるはずだ。

 すまないが頼む」


「分かりました。

 このまま南に進みます。多分、サラティ姉さんが西門の前にいますよ」


 魔物モンスターが暴れ怒号が飛び交う中、父さんとフォルス兄さんに別れを告げて南下を開始する。


 ドクンッ!


 また来た。

 メイクーンの街の手前、獣と魔物モンスターが溢れた平原へ駆け出し、敵が現れると同時に体内の力が脈動する。


 前方には大きな亀。体高五メートルほど。巨大猪ヒュージボアよりも一回り以上大きい。

 まるで家が動いてるようなものだ。


 動きは遅いけど弓も剣も通らない。

 たまに近くの魔物に噛みついてるけど、攻撃力はそれほどでもない。いや、噛みついたら離さないのか、……一度噛みつかれたら少し厄介か。

 いずれにせよ、このままじゃ足を止められない。


 亀の正面には立たず、右から狙った。


 うおぉぉぉぉぉっ!


 長片手剣を両手で掴み後ろに引くと肩を回して真上から甲羅を叩いた。


 ガアァァン!


 まるで厚い金属を叩いたような音が響き、片手剣が弾かれる。

 くっ、大山椒魚グランレプティアのときよりも硬い。

 このままじゃダメだ。


 力任せに行くか?

 いや、今のオレはさっきまでのオレとは違う。

 ほんの数時間で力も動きも変わった。


 すぐに狙いを変えると亀の背甲と腹甲、その隙間から前脚を狙って突きを放つ。


 突きは前脚の付け根に刺さり、外皮を引き裂くとそのまま深々と突き刺さった。


 狙い通り。

 突き刺さった片手剣を捻り上げて甲羅に沿って外皮を切り広げる。

 切り裂かれた左の前脚に亀の体重がかかるとそこから血が溢れ出し崩れるように前脚が折れて亀の動きが止まる。


 簡単じゃないか!


 オレは片手剣を腰抱きにするように構えると、亀の首の付け根に剣を構えたまま体当たりした。

 片手剣の切っ先が外皮に刺さると、両足に力を込めて剣を斜め前に突き上げる。


 首を貫いた片手剣を梃子のように扱い、何とか首を落とす。

 ……スカッといかなかったけど、身体が小さいから仕方ない。


 平原にいる大物はコイツが最後みたいだ。

 その後、雑魚を掃討しながら街に帰った。



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