第2話

 ……何だ?


 再び中腰になり剣を構えると自分に溢れる力の大きさに気付く。

 さっきまで剣を振り続け、疲れきっていたのに力を溢れてくる。


 この力は何だ?


 僕、ハク・メイクーンは八歳の子供。

 子爵家の子だから帯剣してるけど、剣は使えない。

 魔術も勉強しているけど、火球ファイアボールの一つも使うことができない。


 それなのにこの溢れる力は何だ?


 握り締めた片手剣を軽く振る。

 体格と比較して引き摺るような片手剣なのに軽く感じる。

 さっきしてた素振りと感触が違う。


 身体が熱くなり、力がみなぎる。

 子供の身体に得体の知れない筋力が溢れ出てくる。


 恐怖よりも興味。

 抑えられない興奮。


 今まで感じたことの無い知らない力。

 その筋力、本能に突き動かされるようにして片手剣を構えて呼吸を整えた。


『……クルヨ』


 そして、その瞬間がやって来る。





 獣たちが森の奥から溢れ出して来る。


 集団暴走スタンピード


 森の中を獣たちが暴走して迫って来る。

 森の奥から地響きが延々と続く。

 何が原因か分からないけど、森の奥から獣たちが溢れ出てきた。


 ドクン!


 僕の身体に更に力を感じる。


 あぁ、緑の森が紅く変わる。

 身体が一層熱くなり、視界が真っ赤に変わった。


 泉を背にして、獣たちと同じ方向に走る。

 メイクーンの街に向かって。




 獣たちと並走しながら、暴れる獣を片手剣で切り捨てる。

 猪、鹿、兎、猿。

 鼠、兎、鹿、鹿。

 猪、猪、兎、兎。

 森の中、足元が悪い中、とにかく片手剣を叩きつけるようにして斬りつける。


 ともすれば押し潰され、流されるような獣たちの奔流の中、一人で集団暴走スタンピードの流れに乗って獣を狩る。


 街が危険だ。


 不思議なことに自分のことには恐怖や躊躇いを一切感じない。

 ただ興奮と歓喜がある。

 息も切れず、充血した赤い視界の中で獣たちの動きが良く見える。


 疲れも痛みも感じずにどれだけ剣を振っただろうか?

 ギチギチと煩い腰丈ほどの蟻の化物。

 牛のような角をした真っ赤な鹿の化物。

 斑ら模様で赤い目の緑の栗鼠。

 尖った歯で噛み付いてくるデカい黒兎。

 長さが十五メートルもある黄色い蛇。

 森の獣の続いて見たこともない化け物が次から次へと湧いて来る。

 コイツらは獣じゃない。魔物モンスターだ。


 森にいるような獣とは凶暴さが違う。

 魔力を喰らった生物は化け物と化し、獣とは別次元の強さを持っている。

 それが魔物モンスター


 化け物たちは身体が大きい。そして硬い。生命力が強い。

 流石さすがに普通の獣を狩るように簡単にはいかなくなって来た。

 それでも力任せに片手剣を振り回す。

 大猪のような魔物モンスターに弾かれ身体のあちこちを木々にぶつけ、蛇の牙が左腕を掠めて行く。


 オレはこんなことではくたばらない!

 諦めない!


 次第に化け物の数が減って来る。

 身体に力が滾るのに、もう終わりかと口惜しく思ったとき、そいつは現れた。


 僕を一飲みに出来そうな大きな口を持つ大山椒魚グランレプティア

 身体の大きさはこれまでの化け物とは桁が違う。

 見上げる高さは二メートル、頭から尻尾までの長さが六メートルはある。

 ヌルヌルと黒光りする表皮に浮かぶ黄色い斑ら模様。

 その胴体から伸びる四肢で木々をへし折りながら近づいて来る。


 ハハハッ。


 乾いた笑いが出てきた。

 笑いながら勢いよくジャンプすると片手剣を大山椒魚グランレプティアの頭に叩きつける。


 ザクリと片手剣が表皮を切り裂き、緑色の血が吹き出た。


 グワアアア!


 大山椒魚グランレプティアが唸りを上げて、身を捩らせると、周囲の木々を押し倒す。


 浅い。

 大山椒魚グランレプティアは大きくて硬い。

 表皮しか傷つけられなかった。


 フフフッ。


 いいだろう、それでもオレが倒してやる。


 図体は大きいけど、動きは遅い。


 何度も何度もヒットアンドアウェイで斬りつけるけど、小さな傷が増えただけで、表皮しか傷つけられない。


 大山椒魚グランレプティアはそんな傷では怯みもせずにし体をくねらせ、尻尾を振り回す。


 ドン!


 斬りつけたタイミングで振り回された前脚に吹き飛ばされた。


 かふっ。


 地面に叩きつけられると、一瞬全ての息を吐き出し、動きが止まる。


 クソッ。

 力が足りない。



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