火の神祭り
ギルドの扉を開ける。まさか1ヶ月も経たずに帰ってくるとは思わず皆驚いた目でこちらをみていた。私もびっくりである。
「おい嬢ちゃん、もう戻ってきたのか?」
「あ、ギルドマスター。いやー戦ってる最中にヘマをやらかして怪我して帰ってきたんですよ。」
あまりにも明るく言うもんだからギルドマスターも困惑気味だ。
「怪我は大丈夫なのか?」
「ええ、巨大なモンスター討伐みたいなのは無理ですけど簡単な依頼ならこなせますよ。」
「そうか」
ギルドマスターは少し思案した後、
「なぁ嬢ちゃん頼みがあるんだが」
厄介ごとの予感がした。
王都ルーメンから火の街イグニスまでは馬車で2日の距離と比較的近い。私は商人の積荷の空いている所に乗せてもらい、イグニスまで来た。何故いきなりイグニスにきたかと言うと、ギルドマスターの頼みだ。この街は火の街と言われるだけあって火の神への信仰が厚い。だから1年に1回火の神祭りというのを行う。そこでは神への捧げ物として魔力で作った花火を打ち上げる。ただ困ったことに、今回はいつも打ち上げていた人がギックリ腰になってしまって打ち上げられない、そんな時に火の魔法が使える私に声が掛かったわけだ。今は、依頼人に依頼内容の確認した後、花火を打ち上げる夜まで暇だから露店を冷やかして肉を買い、ベンチに座って優雅に夕飯を食べているというわけだ。
...いつもならパーティのみんなが私に野菜を食べさせてこようとするのだが今はいない。案外仲間がいない食事を寂しく感じる。そんなことを考えているといきなりドレス姿の少女が私の横に座って来た。そして、
「旅の方、わたくしの友人のふりをしてくださらない?」
なんて宣って来た。
「お嬢様ー、お嬢様ーどこにおられるのですかー」
遠くから男の人の声がする。多分この少女はどこかのお嬢様で祭りの最中に抜け出してきたと、
「早く、早く友人のふりをしてください。」
少女が私を焦らせてくるがそのドレス姿だと目立ってすぐに見つかるだろに。哀れに思った私は少女に透明化の魔法をかける。少女が体がいきなり透明になって驚く。先ほどから大声でこの少女を探している従者と思われる男性がこちらまで探しにきた。ベンチに座って優雅に肉を食っている私に声をかける。
「こちらにドレス姿の少女が来ていないでしょうか?」
「そんな人は見てないですね。」
私はすっとぼける。従者の男は周りを少し見渡した後慌てて他の場所へ向かった。
男が居なくなって少ししてから透明化の魔法を解除する。
「あ、ありかどうございます。」
少女がお礼を言ってくる。
「礼なんていらないよ」
「本当に助かりましたわ。」
「というか魔法が使えるのですか?」
「まぁそうだよ。」
少女は少し思案したあと
「厚かましいお願いなのですがこの辺りを紹介してくだいませんか?あまり庶民のお店は詳しくなくて」
「ごめんね。私これから依頼なんだ。」
そう断ると少女は目を輝かせて
「依頼ということは冒険者さんなのですか?もしよろしければその依頼ついて行ってもよろしいですか?」
めちゃくちゃ圧が強い少女に私は花火打ち上げるだけだからいいかと許可を出した。
花火は街の1番高い高台から上げる。本来なら簡単に入ることはできないが依頼内容の確認の時に1度顔を合わせていたからかあっさりと入ることができた。
「うわぁこんなに高いですのね。」
ドレス姿でここまでついてきた少女が全身を使って驚きを表現していた。いい所のお嬢様でもこの高台には登ったことはないらしい。私は塔の最上階に彫られている魔法陣に目を向ける。さっぱり何が書いてあるのかわからない。というか私は雰囲気で魔法を使ってるからこういう理論的なことはさっぱりだ。まぁただここに火の魔力を流し込めば花火が打ち上がるということは事前に聞いている。
「よしやるか」
私は深呼吸を1回した後魔力を流し込む。段々と魔法陣全体に魔力が行き渡って赤く発光し始めた。
「綺麗」
少女が何か言っているが集中している私には何を言っているのか聞き取れなかった。そして光がより一層強くなり花火が打ち上がった。花火 はゆっくりと夜空に向かい大きな華を咲かせた。少女の方を見るとこんなに至近距離で見たことはないようで完全に花火に魅入っていた。
ただ花火は夜空に咲いた後すぐに儚く散った。それが悲しいようでそれが表情ですぐわかった。コロコロ表情が変わって面白いな。まぁ魔力はそこそこ流し込んだからあと数発は打ち込まれるし、確かこれが終わったら今度は火薬で作った花火が打ち上げられる予定だ。まだ少女の変顔芸は終わらなそうである。下を見ると街中の人が静かに花火を見ていた。あぁこれが終わったらこの未だに名前を知らない少女を送り届けなければならないのか。
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