第14話
妹が所属するアイドルグループの冠番組の最終回の日。
俺は最終回を一緒に見よう、と妹にメールした。
しかし、一時間経っても二時間経っても一向に返信がない。
彼女も忙しい身だ、メールが目に入っていないのか、都合が悪く返信しづらいのか。
その程度に思っていた。
工場での仕事が終わった俺は帰宅後の妹との時間を楽しみに帰路についていた。
そんな中、携帯が鳴った。
やっと妹から返信が来たかと思いふと携帯の画面を見ると、そこには知らない番号からの着信が表示されていた。
誰からの電話だろう…。
そう思い電話に出ると、
「もしもし、小早川あかりさんのお兄さんですか?」
「…はい、そうですが」
「あのー、こちら警察なんですが…」
「警察?警察って…妹に何かあったんですか!」
「…落ち着いて聞いてください。妹さんはビルから転落したらしく、容体も非常に危険な状況です」
「え?」
「たった今病院に搬送されたのでお兄さんも向かってあげてください。これからその病院の連絡先を教えます」
俺は頭が真っ白になりながらも必死にその病院の住所をメモした。
一体何が起こったのだ。
夢に向かって輝いていた妹の身に何が起こったのだ。
錯乱しそうになりながらも俺は身体を無理矢理動かして妹が搬送された病院へ向かった。
しかし、
「ご臨終です」
病院へ着き、妹がいる病室の前に立つ医者からそう言われた。
嘘だ、そんな訳ない。
そんな事があってたまるか。
俺は妹がいるはずのその病室の中に入った。
するとそこには、身体こそぐちゃぐちゃになっているが確かに妹の顔をした遺体があった。
「あかり…」
俺は放心状態になりながら思わず妹の名を口にした。
本当にこの遺体は妹なのか。
確かめるかの様に俺はその身体を触り、そして抱きしめた。
そのとき、俺の身体はガクガクと震えていた。
間違いない、妹だ。
その事実を認めてしまった瞬間、俺は嗚咽する様に一気に泣き崩れていた。
ひたすら悲しに暮れている中、一つのノイズが俺の頭に入ってきた。
ガチャ。
「小早川!あっ…」
その声の主は妹が所属していたグループの担当マネージャーだった。
「…お兄さんですね」
「マネージャーさん、どうしてこんな事に…どうして…!」
「…」
沈黙が続いたが、しばらくしてマネージャーが重い口を開いた。
「あのお兄さん、思い当たる節がない訳ではありません…」
「え?」
「今日、ついさっきネットの記事でこんなものが出回りだしたんです」
そう言うとマネージャーはスマホを取り出し、そのネット記事を俺に見せてきた。
「なんだよこれ…」
そこには『人気急上昇アイドル、パパ活か?』という見出しで妹と顔にぼかしがかかった中年男性が一緒に写った写真が掲載されていた。
写真に写る女はどこからどう見ても俺の妹で、隣にいる男はこの記事によると某広告代理店の幹部で妹が出演していた番組のプロデューサーにも名を連ねていた人物との事だった。
その記事の内容では妹とその男は、男が所持しているマンションの一室に足繁く通っている、というものだった。
記者のインタビューに応じたその某広告代理店幹部は「未成年に手を出す訳ないじゃないか、綿密な打ち合わせだよ、綿密なね」と答えたという。
「事務所にも今日連絡が来たんです。勿論この広告代理店の方は存じ上げていますが、小早川とこんな関係になっているとは知りませんでした…」
とマネージャーは気まずそうに言った。
何だよそれ。
俺の知らない所で一体何が起こったというんだ。
妹は何を苦にして死んだというんだ。
その日以来、俺は忌引きと体調不良でしばらく仕事を休んだ。
とても働ける状況ではなかったが、それ以上に妹の死の真相を確かめたい気持ちが強く、とにかくあらゆる情報を漁った。
更には探偵に依頼し、妹と会っていた広告代理店の男の身元を掴もうともした。
数日後、探偵事務所から調査の内容が届いた。
男の名前は大内洸蔵。
そしてその顔写真、勤務先の住所。
その内容を頭に入れて俺は男の勤務先まで向かった。
そして男の勤務先のビルの前までたどり着くと、俺は大内が出てくるのを待ち、張り込んだ。
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