第11話

いつぶりだろうか。


数ヶ月間降り続いた雨は止み、空には晴れ間が広がり出している。


ミカエル曰く、今まで降り続いていた雨は俺の魔術の影響によるものらしい。


雨が止んだという事はその魔術がたった今、解けたという事になるのだろうか。


俺は魔術を使った。


しかしそれを行使し続けた、という自覚はない。


でもこれだけは言える。


俺は魔術を使った事を今深く後悔している。


その心の中の意識が俺の魔術を解除するトリガーになり、雨を止ませたという事なのだろうか。


「アキト、ようやく魔術を解いたか」


「知らん」


「しかし雨の魔術を解いたと言えど東京ドームの卵は恐らく変わらず今もそこにあるだろう。アキトが直接そこへ赴き、さらに強い意志で魔術の解除をせねばならない」


「そんな事、出来るのか」


「…正直言ってそれは分からない。もしそれが不可能であればその卵の中から生まれる者を倒すしか方法がないかも知れない」


「卵から生まれる者って、ベルフェゴールも言っていた奴の事か?」


「ああ、遠く離れた場所でも感じるあの強力な力、あの悪魔はもしや…」


そう言いかけるとミカエルは黙ってしまった。


何なんだよその悪魔は。


そんな大物を倒せるのか。


現にミカエルはベルフェゴールにも力及ばず、俺の手助けがなければ勝てなかったじゃないか。


「そういえばミカエル、散々大見得切って乗り込んだ割にベルフェゴールには手も足も出てなかったな」


「ふん、ベルフェゴールなど本来の私の実力ならば造作も無く倒せた。本来の力さえ目覚めれば私に敵う悪魔などいない」


「なるほど、ではせめて東京ドームに着くまでにはその本来の力とやらを取り戻して欲しいね」


そして俺たちは青空が広がり、微かに虹がかかっている柏の街を歩き出した。


「おい、兄ちゃんたち無事だったのか!」


そこへふと、聞き覚えのある声がこちらに向かってきた。


視線をその声の主に向けるとそれは家電量販店に入る前にキョンの悪魔の情報をくれたおじさんであった。


「あぁ、あのときの。何とか無事に出られました。それにキョンの悪魔はもういませんよ」


「え?キョンの化け物がいないって…どういう事だ?」


「俺とミカエル、2人で倒しました」


「まさか!警察や特殊部隊ですら敵わなかったのに…」


「あのキョンの悪魔は人間の武…いや銃では殺せないという事だったので刃物を使いました。苦戦しましたが一匹残らず駆除しましたよ」


「…」


おじさんは呆気に取られている様だった。


しかしこう言う他に説明のしようがない。


隣にいるミカエルは天使の転生した姿で、と云々かんぬん言っていたら余計話がややこしくなるだろう。


「にわかには信じがたいが、もしそれが本当なら大手柄だ。これでもう犠牲者も出ないで済む」


「いえ、それは…」


元々は俺が魔術を使った事が発端だ、とは言えなかった。


魔術と言ったところで信じてもらえないのは勿論、余りにも申し訳ない、後ろめたい気持ちで押しつぶされそうになり思わず言葉が吃ってしまった。


「それで兄ちゃんたち、これからどうするんだ?電車も止まっているし、帰るんなら俺が車を出してやってもいいんだが」


「それはありがたい」


と、ミカエルが割って入ってきた。


「私達は東京方面へ行きたいのですが、交通機関が動いていないので困り果てていたのです」


「おう、東京か。しかし河川が増水してて陸地が続いているのは松戸あたりまでらしい。松戸までで良いんなら乗っけてやるが…」


「ええ、是非お願いします」


「柏を救った英雄だからな、お安い御用さ。ちょっと待ってな」


そう言うとおじさんはその場を去り、そして数分後、自家用車であろうミニバンに乗って俺たちを迎えにきた。


おじさんの自家用車は後部座席に俺たちを乗せると静かに柏の街を出発しだした。


「なあアキト」


沈黙が続く車内でミカエルがふと言葉を発した。


「何だ」


「そろそろ教えてもいいのではないか、お前が魔術を使った理由を」


「…」


「もう嫌というほど分かっただろう、お前の魔術は最早お前だけの問題ではない。この世界全体の存続にも関わる問題だ。その魔術の動機が分かれば、魔術を解除する糸口になるかも知れん」


そこまで言われればもう黙っている訳にはいかない。


俺は、俺が魔術を使った経緯を語り始めた。

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