第43話 白衣の死神 ※スライム視点

「魔王さま……あー!!」


 ゴーレムは魔王様にストレッチをされて叫んでいた。


「元から硬いのにサボるからいけないんだよ? ずっとストレッチは大事って言ってたよね? やらなかったのは誰のせい? 困るのは誰なの?」


「……私です」


「だから痛いんですよ? ちゃんと伸ばしてね」


「あーー!」


 ゴーレムの叫び声はリハビリ室に響き渡っていた。


 リハビリってそんなに叫ぶものでもないはずだが……。


 そんな様子を外から見てカタカタと震えている人物がいた。


「はぁー、あれは絶対魔王の素質を持ってるよ……。私より魔王向きじゃんないか」


 そんな様子を見ていたのは暴食の魔族であるアラクだ。


 その手には白衣を持っていた。


「いやー、魔王様ー!」


「はいはい、逃げないで」


 鉄壁の守護神とも言われるゴーレムが叫んで逃げようと、もがく姿は魔族達も想像していなかったのだろう。


「アラクさんどうしたのー?」


 そんなアラクに私は声をかけていた。


「あの…….」


「ん?」


 アラクは震えた手で慶を指さしていた。


「魔王さま?」


 私は首を傾げた。どうやら魔王様に用があるのだろうか。


 白衣を納品する日だったのだが、リハビリ室の魔王様を見て入れなくなったのだ。


 私は魔王様を呼ぼうと息を吸った。


「まお・%:\jngep」


 声を出した瞬間にアラクに口を閉じられた。


「ま……魔王様っていつもあんな感じなの……?」


 アラクは手を離し私に聞いて来た。確かに魔王様はいつもあんな感じだ。


「魔王様はああやっていつもリハビリしてるよ?」


 アラクは私の言葉に絶句していた。


「愛しのサハギン様について来たのにここは地獄だったのね……」


「アラクさんは魔族だから――」


「シィー! 絶対それを魔王様に言ってはダメよ!」


 私の口は再びアラクの手に封じられた。


「あっ、こんにちは」


 そんな中、魔王様はリハビリを終えたからか窓を開けた。


「ひゃい!?」


 アラクはビクッとしていたが、手元の白衣に目が向いていた。


「あっ、やっと白衣ができたんですね」


「あっ、はい! 今すぐに貢献します」


 アラクは自身の手を伸ばし素早く魔王様に白衣を渡した。


 後ろにはピクピクとしているゴーレムがいた。


「あっ、ありがとう。ちゃんと2種類あるんだね」


 魔王様はそのまま着ると動きやすさを確認しているのか、全方向に手を動かしていた。


 どうやら魔王様も気に入っているようだ。


「アラクさんの服ってやっぱすごいね」


「へっ!?」


「こんなに良い白衣を着たのは初めてだよ!」


「そっそんな……私は一生懸命作っただけで――」


「いやー、これで働きやすくなるね」


 魔王様は自然と微笑んでいたが、その姿を見てアラクはまた怯えていた。


 さっきまでゴーレムのリハビリをやっていた時と同じカッコいい笑みをしていた。


「ついでにアラクさんも体のメンテナンスしていきます?」


「いっ、いえいえ」


 そんなに嫌なのか高速でアラクは首を横に振っていた。


「では私は忙しいので失礼します!」


 アラクは急いで自身の家に帰っていった。


「あれ? 脚がたくさん……」


 魔王様は目を擦っていた。


「魔王様似合いますね」


「ふふ、ありがとう」


 さっきまでピクピクとしていたゴーレムが起き上がった。


 ストレッチをした後は筋肉に力が入りにくく脱力することがあるからだ。


「ああ、これで楽にリハビリができるよ」


 ゴーレムに白衣を来た姿を見せるとゴーレムも震えていた。


「どうしたんだ?」


 魔王様が声をかけるが、ゴーレムはそのまま走ってリハビリ室から逃げていった。


「なんでみんな逃げるんだ?」


「なんでだろうね?」


 私と魔王様は首を傾げながら走っていくゴーレムを見ていた。


 後に魔王様は街の中では白衣を来た魔王様に会ったら命が削られる……"白衣の死神"と呼ばれるようになった。

 

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"魔王様"と呼ばれた男のリハビリスローライフ。魔界のリハビリ教室は今日も賑わっています〜外れスキル【理学療法】は魔物を強化できるらしいです〜 k-ing@二作品書籍化 @k-ing

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