第42話 急性腰痛症
ガーゴイルから頼まれた丈夫な紐は後日アラクに頼んだ。
早く白衣の制作をしたかったのか、1時間もしないうちに沢山の紐が届けられた。
「おー、魔王様この糸丈夫ですね」
「ゴーレムが乗っても大丈夫なら本当に丈夫なんだろうな」
紐を木に引っかけて、先端に岩の塊であるゴーレムがぶら下がっているのだ。
紐が切れそうになるのではなく、引っかけた木の方がミシミシと音が鳴っている。
「全然問題なさそうだな」
「そうですね! ほら、こんなにじょうぶあぁぁー」
ゴーレムは体をブンブンしていると、ついに木が耐えれなくなり途中で折れてしまった。
俺の体より大きい枝を選んだはずなのに折れるということは、よっぽどゴーレムが重いのだろう。
「大丈夫か?」
「大丈夫……じゃなさそうです」
俺はゴーレムの体を視診すると思った通りのウィンドウが表示されていた。
――急性腰痛症
急性腰痛症はいわゆるぎっくり腰と呼ばれているものだ。
急に重い物を持ち上げたり、捻ったりする時に起きる。
腰を打って痛めたというよりは、紐の耐久性を確認している時になったのだろう。
木が折れたのはただ単にタイミングが良かっただけのようだ。
「ふふふ、あははは」
俺はあまりの面白さに笑っているが、ゴーレムに取っては魔王の不気味な笑いに見えていたのだろうか。
ゴーレムはどこか震えていた。
「ゴーレムくん?」
「はい……」
「最近インナーマッスルを鍛えるのを忘れているよね?」
急性腰痛症の原因として、腹筋や背部筋の弱さも要因としてあった。
インナーマッスルと呼ばれる深層の筋肉はただでさえ鍛えにくいところだが、腹筋はそのインナーマッスルの塊なのだ。
今回は事故に近い気もするが、普通に遊んで捻っただけでこんな風にはならないはず。
「治ったらリハビリ再開ね?」
俺はゴーレムの方を見て微笑んだ。
特に意味はないが、その笑顔を見てゴーレムは叫んでいた。
きっとリハビリが始まるのを喜んでいるのだろう。
「とりあえず、今は安静が必要だけどな」
俺は軽くゴーレムの肩を叩くと、ゴーレムはそのまま崩れ落ちた。
「おっ、おい俺はそんなに強く叩いてないぞ!」
「もう無理です……」
「おい、無理ってなんだよ! ただのぎっくり腰じゃないか」
「無理です……。リハビリが無理なんです」
前回のリハビリが相当辛かったのだろう。
辛くないリハビリがないのは事実かもしれない。
体を治すために俺自身も手を抜かないからな。
これはリハビリ意欲を管理できなかった俺のミスだ。
「そうか……。でも、やらないとまた腰を痛めちゃうし、慢性になると最悪動けないからな」
「動けないとは……?」
ゴーレムはあまり想像ができていないのだろう。
「んー、以前の俺たちが来る前の状態に戻るってことかな?」
ゴーレムは基本的に街を守るように生まれた魔物のため、守る対象である街や人がいないと動くことはない。
今は毎日街の中を走っているぐらいだから、前とは差が激しい。
「俺達と一緒に生活するのも出かけるのもできないし、お前の仕事である街の管理も出来なくなるぞ?」
ゴーレムはやっと想像したのだろう。
目から出る石を拭いていた。
「ゴーレムって泣くと石が出てくるのか」
つい思っていたことが口から出ていた。
「魔王様! 俺……リハビリ頑張ります!」
「そうか、じゃあ覚悟はしておけよ!」
やる気を取り戻したゴーレムに最大の笑顔を見せた。
やはり、リハビリ意欲は落ちるものだ。
それを管理するのも理学療法士の役目でもあるからな。
「うっ……やっぱり魔王だー!」
ゴーレムはそんな俺の笑みを見ると、今後起きることを想像したのか絶望を感じていた。
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