第39話 街に到着 ※一部第三者視点
俺は普段通りリハビリをやっていると、コボルト達が何か報告があるのか後ろに立っていた。
「魔王様!」
「うぉ!?」
急に話しかけられ俺は驚いてしまった。
コボルト達は以前よりも隠密度が増したのか、意図的に姿を見せない限り見つけづらくなっていた。
「何かあったんか?」
普段隠密行動しているコボルトから連絡が来るってことは、何か相談しないといけないことが起きているのだろう。
「サハギンが戻ってきています」
あんなに驚かされたサハギンは、今では立派な商魚になった。
本人の夢である歩いて旅をするのを叶えるために、定期的にこの街で手に入れたものを他の街と取引し、ここで手に入らない食べ物や調理道具、衣服などと交換してもらっている。
「おお、なら出迎えないといけないな」
「それが……」
俺が出迎えようとするが、なぜかコボルトの歯切れが悪かった。
「なにかあったんか?」
「一緒に連れて来ている者が危険なような気がしまして……」
コボルトはこの時は何かしら不穏な空気を感じていたのかもしれない。
「尚更、出迎えないといけないな」
俺はコボルトにサハギンが近くまできたら伝えるように指示しリハビリに戻った。
♢
しばらくするとコボルトから報告があり、俺は街の入り口に向かった。
待っていると楽しそうに話すサハギンと荷台に乗った女性がいた。
特に雰囲気は良さそうだが、こちらに気づいたサハギンは手を振っていたが、女性の顔はこちらを睨んでいた。
「おう、おかえり!」
「魔王様、わざわざ出迎えてもらって……申し訳ありません」
急に謝ったことに対して俺は宥めていたが、サハギンはいつも変わりなかった。
「魔王様に紹介したい人がいたので連れてきました」
サハギンは後ろの女性を紹介した。
名前はどうやらアラクというらしい。
「はじめまして、アラクと申します。お名前を伺ってもよろしいですか?」
さっきは睨んでいたが、意外にも礼儀正しいような印象を受けた。
「ああ、俺の名前は慶だ。なぜかここでは魔王様と呼ばれているが好きに呼んで構わないよ」
魔王様と言葉を発するとなぜか眉毛がピクリと動いていた。
アラクもこの森にいるということは何かしらの魔物で、"魔王"という言葉に敏感なんだろう。
「では、慶様と呼ばさせて頂きますわ」
「おー、誰も呼んでくれないから久々にしっくりくるな」
言葉遣いも丁寧なアラクに俺は好印象を抱いていた。
「それでアラクさんを連れてきてどうしたんだ?」
サハギンに尋ねると今までの経緯を話し出した。
「アラクさんのスキルが変わっていて、食事を提供する代わりに衣服を作ってもらうことでいいかな?」
「それで合ってます」
サハギンは内心ドキドキとしていた。
勝手に街に連れてきたのもあり、ひょっとしたらこの街から離れないといけない可能性を考えたのだろう。
特に断る理由もないしな。
「それは大歓迎です! ここには皮素材の服しかありませんし、正直動きにくいので助かります」
俺はアラクを街に住ませることを受け入れた。
「それで住まいは一緒に住みますか?」
二人に尋ねると、顔を赤らめておどおどしていた。
そんな姿を見て、俺のお節介な部分が顔をちらつかせていた。
「ああ、そういえばまだ他に住むところが整っていないので一緒に住んでもらってもいいですか? まだ、慣れていない街でも知っている人がいるところの方が怖くないですもんね」
気を利かせるとさらに顔を赤くしていた。
魔物達もこんな反応を見せるんだな……。
「魔王様、ガーゴイル達のリハビリの予約時間になりました。すぐに持ってきてください」
そんな中、リハビリの時間を知らせるためにゴーレムが呼びにきていた。
ゴーレムはアラクの顔を見ると何か険しい顔をしていたが、俺の前だからか普段の表情に戻した。
「じゃあ、二人とも長旅お疲れ様でした! アラクさんも何か必要な物があれば教えてくださいね」
俺はリハビリをするために自身の屋敷に戻った。
いやー、少しずつ街が賑やかになりそうだな。
♢
見送ったゴーレムはアラクに近づき小声で話した。
「なぜ、"暴食"の魔族であるアラクネの貴方様がここにいらっしゃるんですか?」
ゴーレムはアラクの正体を気づいていた。
長い間街を守っているため、それだけ長年の知識もあるのだろう。
「特に理由はない」
まさかの答えにさらにゴーレムは警戒を強めた。
「魔王様……いや、慶様に何かするのであればタダでは済まさないぞ」
「ゴーレムごときが何をできるって言うんだ。私は単純にこの男に惚れたからついてきたんだ」
「……惚れた?」
アラクの言葉にゴーレムは思考が停止していた。
「あのー、サハギンさんとアラクさんはお付き合いされているんですか?」
ゴーレムは驚いてサハギンに尋ねると、サハギンは顔を赤くしていた。
「いや、あの……これから頑張るところです」
その言葉を聞いたアラクはさっきより顔を赤くしていた。
その姿はもう茹で蛸状態だ。
「ははは、アラクさん疑ってすみません。では、何かあれば私に声をかけてください」
どうやら本当にお互いを気に入って、アラクは街に付いてきているだけのようだった。
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