第38話 織物名人 ※サハギン視点
「ごめんなさい! でも、こうでもしないとお腹が減って仕方ないの」
俺の薄れた意識の中でも彼女はまだ謝っていた。生きていくには食べ物が必要だ。
この少女はあまりご飯が食べれていないのだろう。
見た目もすごく痩せ細っていたからな。
「それは仕方ないな。俺の荷台に肉があるからそれを食え。魔王様は心が広いから、人助けには何も文句を言わねーぞ」
俺は現実か夢の間で彼女に伝えると、そのまま意識を失った。
♢
それからどれくらい寝たのかわからないが、どこか体はすっきりとしていた。
そして、俺はなぜか柔らかいものを頭に感じていた。
「うぉ、すまない」
俺はすぐに頭を上げたが、彼女は起きさせないように手で押さえていた。
「ちょ、力が強くないか?」
ぬぬぬ、力には自信はないが少女一人の力に負けるとは……。
うん、体が疲れているのだろう。
「ごめんなさい」
彼女は謝っているが、力を緩める気はないらしい。
そのまま寝て欲しいのか俺は柔らかい何かを堪能することにした。
それにしても程よく弾力があって、ベットみたいだ。
「それで、さっきから何に対して謝ってるんだ?」
「あなたの大事な食料を食べちゃって……」
「ああ、そんなことか」
魔王様はそんなことで怒る人じゃない。
むしろご飯を食べないと力がつかないって起こるし、リハビリをサボった時や逃げ出した時の方が怖いぐらいだ。
あの逃げた時を思い出しただけで身震いがするぜ。
「まだ力のコントロールができないの」
どうやら何か力を持っているらしい。
人の子も魔物と同じで何かしらのスキルを持っているからコントロールができず、魔族領に捨てられたのだろう。
「そうか」
「何も聞いてこないの? 私のスキルで幻術にかかったのに……」
どうやら彼女は空腹になると、敵味方関係なく幻術にかけてしまうらしい。
だから、荷台の食べ物を狙っていたのだろう。
「それは大変だな」
たしかにさっきまであった街はなく、周りは糸が張り巡らされていた。
彼女の幻術に俺も知らないうちにかかっていたのだろう。
「綺麗だな……」
それにしても、糸は輝きを放ち繊維自体は高級な物だろう。
つい声に出してしまった。
「綺麗……」
なぜか彼女は顔をまた赤く染めていた。
力だけじゃなく、感情も中々コントロールできなさそうだ。
「ああ、この糸で服とか着たら最高だな」
俺の言葉に少しムッとした表情をしていたが、糸を褒められて喜んでいた。
「服なら作るの得意ですよ? 糸もスキルで出せるし……」
どうやら彼女は織物が得意らしい。
確か魔王様の街はゴブリン達が皮で作った服しか着ないから、布が手に入れば交換することで彼女も食料を手に入れ、お互い良い関係になれそうだ。
「どれぐらいで作れる?」
「すぐに作れるよ?」
そう言って彼女は私を床に下ろしてどこかに行った。
「絶対に覗かないでくださいね?」
何か乙女の事情があるらしい。
しばらく待っていると、彼女は何か手に持ってきていた。
「もうできたよ」
あまりの早さに俺は驚いてしまった。
少しぼーっと考え事をしていただけで完成してしまったのだ。
「着てもいいかな?」
「うん」
彼女が作った服を受け取ると、その場で服を脱いで着替えた。
「いやん」
彼女は手で顔を隠していた。
少し隙間から覗いているのは、そんなに自分の服が気になるのか……。
「おお、すごく着心地がいいな!」
気にしてそうだからすぐに感想を伝えると彼女は喜んでいた。
こんな良い服を作れる人材を逃す訳にはいかなかった。
「よかったら俺が住んでる街に来ないか?」
「街に……?」
彼女は首を傾けていた。
「ああ、とても良い街なのでそこで服を作ってみないか? 服を作る仕事をすれば、ご飯はいくらでも食べれられるぞ」
どうやら彼女は何か迷っているらしい。
出来ればこの技術は逃したくないが……。
「一人が怖いなら俺の家に来るか?」
まぁ、悪い子でもないから一緒に住んでも問題はないだろう。
俺の言葉を聞いて、彼女はすぐに頷き微笑んだ。
「うん!」
「じゃあ、決定だな! とりあえず、街に帰ろうか」
俺は彼女を荷台に乗せて押し始めた。
何故か、肉を運んだ時よりも重く、見た目と重さが違うのは乙女の秘密なんだろう。
俺は聞かずに荷台を押すのだった。
──────────
【あとがき】
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