第37話 商魚 ※サハギン視点
俺は商魚のサハギンだ。
今は立派な靴を履いて、荷台を引きながら毎日歩き回ってるぜ。
色々な魔族の領地に行って良い商品と交換してくるのが俺の仕事だ。
これもあの魔王様のおかげで、今は水の中に入らなくても大丈夫な体になった。
そんな俺は今暴食の魔族がいる街に来ている。
暴食の領域といえば、どこを見渡しても糸が張り巡らされている。
だから間違われずに食べられないように注意が必要。
「今回は何と交換してもらおうか……」
俺は魔王様の街から食料を預かっている。
あそこは名産品はないがコボルト達が狩猟を頑張っているから肉類の食料には困っていない。
「さぁ、ここで買い取ってくれるやつを探さないといかんな」
俺は街の中を回るが、話を聞いていたより静まり返っていた。
その時に気づけばよかったのだが、俺はそのまま街の奥深くに入ってしまったんだ。
そんな中、前を歩く少女がいた。
「少し時間いいかな? この辺で食料を買い取ってくれるところを知らないか?」
声をかけると少女は振り返った。
何か感情が抜け落ちており、なにか不気味な雰囲気を感じた。
「あっちにあるよ」
少女は指を差すとそこには建物があった。
「あれ? あんなとこに建物あったか?」
俺は何となく不思議に思ったが、少女に礼を伝え建物がある方に向かおうとした。
すると、後ろから少女の声がした。
荷台を運んでいる声は俺の耳元から聞こえたんだ。
「獲物がきた……ひひひ」
「あわわわ」
急に耳元で話された俺はいやらしい気持ちになっていた。
「お前、いきなり耳元で話すなよ」
「えっ……!?」
何か俺の顔を見て少女は驚いていた。
そんなに驚くこともないが……。
「こんな可愛い奴に声をかけられたら惚れちまうだろうが!」
「かっ……かわいい!?」
ついいつも通りに言ったら、少女は顔を赤らめてあたふたしていた。
「男達に変な誤解を招くから、絶対俺以外の前でやるなよ」
「あっ……うん」
どうやら納得してくれたようだ。
俺はそのまま建物に向かおうとすると、なぜか少女も後ろから付いてきていた。
「すみません、誰かいますかー?」
少女に言われた建物に来ても、他の人の存在はなかった。
誰か居た形跡もなく部屋自体が冷たく静まりかえっていた。
「おい、本当に誰も居ないんだな……?」
俺は少女の方へ振り返ると目眩に襲われた。
「あっ……なんだこれは……」
「ごめんね……私の幻術なの……」
少女はなぜか悲しい顔をしていた。
俺はそっと頬を撫でると、どこか恥ずかしそうな顔をして、目からは涙を流していた。
「可愛い顔が台無しだぜ」
「本当にごめんね」
俺はそんな少女の声を聞いたのを最後に、そのまま意識が薄くなり倒れたのだった。
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