第32話 小さな魔界

 その後も建物に役割が決められ、街として機能するようになってきた。


 コボルトは主に狩猟と街の飲食関係、ゴブリンは基本的に鍛冶で武器や防具を作っている。


 ゴブリンの腕が足より太かったのは、元々得意な分野によって発達されたものだった。


 その他、スケルトン達が街の警備を務め、サハギンがたまに商業をするために訪れている。


 あれから、サハギンも少しずつ歩ける距離が増えて、魔物達の群れや隠れた村に訪れては物を提供している立派な商人になった。


 そして俺は……。


「本当に硬いですね」


「大きいですからね」


「本当に大きすぎて僕の手じゃ収まりきらないです」


「あー、気持ちいいです。あん、もうちょっと強くお願いします」


「……」


 相変わらずゴーレムのリハビリをしていた。


 街に移動してからはゴーレムもリハビリに通うようになり、岩の凸凹ボディがだんだん丸みを帯びてきている。


 そのおかげか動きが以前より俊敏となり、動きやすくなっているらしい。


「ゴーレムは基本的に体って硬いんですか?」


 材質的な問題で硬いのもあるが、視診から腰痛持ちになる何かがあるのだろう。


「私たちの種族は基本的に動かないことが多いですからね」


「あっ、種族ってことは他にもいるんですか?」


 俺はゴーレムとしか似たような魔物を見ていないため、他の種族を知らない。


「魔族軍で有名なのはガーゴイルとかですね」


 ガーゴイルは転移する前に聞いたことある存在だった。


 魔族軍という物騒なワードに俺は出来れば出会いたくない。


「じゃあ、これで今日は終わりですね」


「魔王様、本日もありがとうござました」


 リハビリの影響か少し知能も上がっているようだ。体と脳がリンクしているのだろうか。


「そういえば、魔族が一部復活したと話を聞いたので、ひょっとしたらこの街にも来るかも知らないですね」


「……」


「では、失礼しま――」


 ゴーレムは頭を下げ、街の入り口に戻ろうとするところを俺は腕を掴んだ。


「この街に来るってどういうことですか?」


「いやー、私が伝えましたね。ガーゴイルさん達も私と同様であまり動かないので体を痛めてるんですよ」


 まさか原因がこんな簡単に見つかるとは……。


「お前が原因じゃないかー!」


 俺はそのままゴーレムを叩くが、痛かったのは俺の手だった。


 やはりゴーレムは硬かった。


「ははは、魔王様も力じゃまだまだですね」


「くそっ! お前のせいでガーゴイルが来たら……」

 

「あっ、魔王様すみません。本当に奴らが来たみたいです」


 どうやらフラグを回収してしまったらしい。


 空には無数の影が浮かんでいる。


 ただ、そいつらは空中で彷徨っていた。


 降りてくると思いきや空中で止まって様子を見ているのだろう。


「少し様子がおかしいです……んー」


「おかしいって……確かに変だな」


 観察していると妙にふらふらしながら飛び続けていた。


 俺は視線をガーゴイル1体に絞り、見ているとウィンドウが表示された。


――廃用症候群


 廃用症候群は、過度の安静や活動性の低下によって生じる心身機能の低下のことだ。


 筋肉が萎縮したり、関節が拘縮することやゴブリンと同様の起立性低血圧も起きたりする。


 他のガーゴイルも1体ずつ確認していくと全てにウィンドウが出現していた。


――廃用症候群


――廃用症候群


――廃用症候群


――廃用症候群


――廃用症候群


 どうやらガーゴイル達はみんな廃用症候群になっているようだ。


「ひょっとしてここから離れた方がいいよな?」


 逃げる準備をするか迷っていると、突然ガーゴイル同士が重なった。


「あっ……あー!」


 次の瞬間、ガーゴイル達が空中から降ってきたのだ。


 ガーゴイルはお互いに衝突して制御できずに落ちてくるのだった。

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