第30話 屋敷の管理者
ゴーレム治療を終えると街の中を探索することにした。街というより廃墟に近い。
ちなみに、腰痛で苦しんでいるゴーレムはそのまま入り口で待機している。
「結構設備はしっかりしているな」
街の中には井戸やお店といった、住居以外のスペースも多く見られていた。
ただ、外観は古いがそのまま住めそうだ。
「ここにはブラウニーがいるからね」
スライムから名前を聞いた瞬間、お腹が鳴り出した。
ブラウニー……コンビニでよく買っていたデザートだ。
「そいつが管理してるのか?」
「そうだよ! 魔王様にとっては馴染みがあると思うけど?」
スライムは俺の転移前を知っているのだろうか。
「ブラウニー……ええ、馴染みがありますとも。毎日買ってたぐらいだからな」
しかし、俺の言っていることを魔物達は理解が出来ていないのか首を捻っていた。
そのままスライムに案内されるように街の中を歩いていると、奥の方に一際大きな建物があった。
いかにも上流階級の人が住むような屋敷に近い。
「ここは魔族が住んでたとこなんだ」
「それは大丈夫なのか?」
スライムから"魔族"という言葉に不安を覚えた。
魔物はある程度、自分より上位のものに従い好意的な印象を受ける。
しかし、その上位の存在として降臨している魔族とはまだ触れ合ったことがないためどのような者達なのかわからない。
「今は使ってないし、かなり前の街だから大丈夫だと思うよ」
「そうか」
俺はスライムの言うことを信じることにした。
魔族が来ても、立ち退き命令がでたらその時に出て行けばいいしな。
気づいた時には今後も魔物達と過ごすことを自然と考えるようになっていた。
「じゃあ、入りますよ」
案内人のようなスライムは屋敷の門を開けると管理されている庭があった。
まだ誰かが住んでいるような印象に俺は足が止まった。
完全に不法侵入している気がするのだ……。
「魔王様どうしたんですか?」
「これ入ってもいいのか?」
「大丈夫ですよ!」
「何かあったらお守りしますよ」
コボルトは犬歯と自慢の上犬二頭筋を見せつけるようにニコリと笑いながらポーズを決めていた。
「ちゃんと助けてくれよ?」
スライムは扉に手をかけると鍵がついていなかったのか、そのまま屋敷の玄関の扉を開けた。
「うわー、すごいな……」
丁寧に行き渡った掃除に、多く置かれてはいない家具にも埃は落ちていなかった。
「全く使ってなかったのか?」
「ここにはブラウニーにがいるから綺麗だよ」
また話に登場したブラウニー……。
あのケーキが綺麗にしてるというのが全く理解できなかった。
「ほら、魔王様あそこにいるぞ!」
ゴブリンが指を差す方に目を向けるとそこにはゴブリンがいた。
「いや、あれゴブリンだよ?」
「あれがブラウニーだぞ?」
ゴブリンの言っていることがわからなかった。
家具の裏からひっそり覗いていたのは、服を着た痩せ細ったゴブリンだった。
「魔王様? あれがブラウニーですよ」
「……」
俺はブラウニーの正体を知って落胆した。
異世界はケーキも掃除をするんじゃないかと淡い期待をしていたのだ。
それが掃除をしていたのは、痩せ細ったゴブリンだった。
「ブラウニーはゴブリンの親戚なんだ」
ゴブリンの説明では、ブラウニーはゴブリンの一種で小妖精と呼ばれる種類らしい。
そのため、見た目はゴブリンに似ているが色は黄色肌でリハビリを終えたゴブリンを細くした見た目をしていた。
ゴブリンの先祖は、肌の色は元々黄色肌だったのだろう。
「あのー、この屋敷使わせてもら――」
俺がブラウニーに声をかけると、そのまま逃げてしまった。
どうやら恥ずかしがり屋なのだろう。
ブラウニーに主人がいない間に家事を行う精霊で、報酬は直接渡さず隠して置いておくと屋敷に住み着くらしい。
今まで誰も来ない中で報酬もなく働き詰めだったのだろう。
どんなブラック企業なんだ……。
「んー、何かいいものあったかな?」
俺は考えていると事前に用意していたのか、スライムは体から果実を取り出していた。
新たなスライムの能力に俺は驚いていたが、コボルトとゴブリンの反応からすると普段通りなんだろう。
「これを置いておくといいよ」
スライムに渡された果物の種類は多く、部屋を周りながら隠すことになった。
屋敷はしっかり完備されており、まさかのお風呂や大きなプールも付いていた。
その規模はどこかの高級リゾートホテルに来た感覚になるぐらいだ。
掃除も行き届いており、改めてブラウニーの能力の凄さを実感した。
「じゃあ、帰ろうか! ブラウニーまたみんなで来るからよろしくな」
箇所に一つずつ果物を隠し、屋敷を周り終えた俺はブラウニーに一言伝え、リハビリ小屋に帰るのだった。
──────────
【あとがき】
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