第29話 ゴーレムのリハビリ

 次第に変化が出てきたのか表情が柔らかくなっていた。


 いや……表情という表情はわからないが、そんな気がするのはスキルの"視診"の影響だろうか。


「少し柔らかくなったけどどうだ?」


「魔王様気持ちいです」


「おい!」


「……はい、楽になりました」


 ゴーレムは俺に圧倒されていたが、どうやら良くはなっているようだ。


 見た目では岩のままで変化はない。


「なんとなく柔らかくなってるけど、岩の上にも筋肉があるんだな」


「我々ゴーレムの体の岩は人間の骨のようになっています。だから動きは人間と変わりなく動くことができます」


 岩の周りに薄い筋肉に包まれているため、思っていたよりもゴーレムは身軽な存在だったのだ。


 単純に筋肉が薄いため、体を支える力が少なく腰痛になっているのであろう。


「まぁ、人間も腹筋弱いから腰痛になりやすいからな……じゃ、仰向けになってください」


「いやん、魔王様! 私の裸……ごほん」


 ゴーレムはチラッと俺の顔を見ると、すぐに元の状態に戻った。


 今の俺の顔は真顔だったからな。


 ただ、俺はゴーレムが咳払いをする時に声を出していたことに驚いていただけだ。


 俺はゴーレムのお腹に触れるとやはりウィンドウは表示されていた。


「きゃ!?」


「……」


――腸腰筋、腹横筋


 腸腰筋、腹横筋はインナーマッスルと呼ばれる体幹を安定させる筋肉の一部である。


 インナーマッスルが弱いと大きい筋肉であるアウターマッスルが優先的に働いてしまう。


 そのため、腹筋で支えれない体を腰の筋肉でカバーしている。


「本当に人間と似たような構造しているな」


 変わった性格を除けば面白い構造のため、徐々に興味が出て来ていた。


「とりあえず、腰を痛めずに下腹部を鍛える方法としてプレーシングを中心にやろうか」


 プレーシングとは手足を空間保持させることを言う。


 簡単に言えば手足を浮かせるのだ。


 一般的に浮かすように空間保持させるだけで筋力をたくさん使うことができる。


 腹筋を鍛えようとすると、一般的に上体起こしをしてしまうが、それでは体を痛めやすいのだ。


 ゴーレムは両足を上げて空中に上げたが、腰が少し浮いていた。


「ああ、やっぱり弱いんだな」


 両足を上げて腰が浮いているのは、下腹部の力が弱く腰の筋肉を使って持ち上げているからだった。


「じゃあ、片方だけでやってみて」


 片方のみ上げることで、腰が浮かずに空間保持ができるようになっていた。


「よし、これからは30秒保持を10回やろうか」


「……」


「嫌なら30回に増や――」

 

「はい、やります」


 ゴーレムは改めて俺に逆らってはいけないと認識するのだった。

 

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