第27話 引越し

 今日も俺は集団リハビリをしていた。


「魔王様、もうきついです」


「これ以上は無理です」


 ゴブリンやコボルトと言われる下位の魔物達は弱音を吐いていた。


 そう、リハビリ小屋の狭さに弱音を吐いていたのだ。


 狭い小屋に押しつぶされそうになるほど魔物達が小屋に入っていたのだ。


 コボルトやゴブリンは魔物の群れごと押し寄せ、さらにはスケルトン達もメタルスライム武装について噂を聞き、リハビリ小屋は魔物で溢れかえっていた。


 周りから見たら小規模なスタンピードに見えるかもしれない。


「魔王様! 引っ越ししましょう」


 俺は以前考えていたが、この地形と安全に過ごせる場所をこの小屋しか知らない。


「他にいい場所はあるのか?」


 俺の問いに他の魔物は特に無さそうだか、スライムはどこか場所を知っているのだろう。


 自分について来いと言わんばかりに腕を大きく振っていた。


「じゃあ、ちょっと新しいリハビリ小屋を探してきます」


 リハビリを終えた俺はスケルトンに留守番を頼み、スライム、コボルト、ゴブリンがお供と探索することにした。


 ゴブリンもこの周辺には詳しいようで今回からお供に参加だ。


 決して俺が森の中を歩くのが怖いってわけではない。


「今日はどこに行くんだ?」


 スライムは北東辺りの方を指差していた。


 以前、スケルトン達が住んでいたところは森の北北西寄りで北に近づくほど魔物が強くなると、魔物達に教えてもらった。


 ちなみに小屋があるのは森の入り口、南側に存在している。


 スライムに付いて行くようにしばらく歩くと、何かの跡地だったのか森の中に突然開いた空間が出現した。


「ここは何かあったのか?」


 森に突然木が生えていない空間が出てこれば不思議に思うだろう。


 それだけ急に周辺には何も無くなるのだ。


「昔ここで魔王様と魔物達が暮らしていたんだ」


 魔王様と聞いて俺は一瞬自分のことかと思ったが、本当の魔王のことを指しているのだろう。


「お前は何で知ってるんだ?」


「だって、そこに住んでたもん」


「えっ……」


 スライムの発言に俺は驚いて立ち止まった。


 見た目は幼女のスライムだが、年齢は全く幼女ではなく老婆を超えた何かだろう。



 そもそも魔物の寿命を知らない。


「じゃあ、そこに案内しようとしているんだね」 


 スライムは俺の方を振り返るとにこやかに笑っていた。


 しばらくするといくつかの建物が見えてきた。


 外壁とかはあまり見当たらず、まばらに壊れかかった建物がある雰囲気だった。


「やっと着いたか! こっ、これは……」


 建物に近づくと不気味な石像が建っていた。


 大きさは俺よりは大きく、2mは確実に超えているだろう。


「ゴーレムだね! 街を守ってる魔物なの!」


 スライムの言葉に俺は不安を感じていた。


 街を守る魔物がいるところに入ろうとしているからだ。


「すす、すみません。失礼します」


 俺は一度声をかけて、街に入ろうとするとやはり不安は的中していた。


「失礼だと思うなら直ちに立ち去れ」


 通り過ぎたと同時にゴーレムから声が聞こえた。


 ただ、残念なのはその声が思ったよりもボソボソとして聞こえづらかった。


「えっ?」


「だから、立ちさあぁ……れ……」


 徐々に声は小さくなり、聞こえなくなっていた。


 俺は振り返るとそこには四つ這いに倒れているゴーレムの姿があった。


「あー……」


 何かに耐えているのか声にならず……いや、悶えていた。


「あのー、大丈夫ですか?」


「魔王様離れるのだ!」


 俺は近づくとすぐにコボルトとゴブリンに止められていた。


「大丈夫なはずあるかーあーぁ……」


 ゴーレムに対して臨戦態勢になっていたが、ゴーレムは攻撃する様子……いや、体力は無さそうだった。


 

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