第19話 サハギン ※スライム視点

 私は声がする方を見ると魔王様は森の方は走って行ってしまった。


「魔王様!」


 大きな声で魔王様の名前を呼ぶが届かなかった。


 声が出せるようになったばかりだから急に大声は出しづらい。


 そもそもなぜ声が出るようになったのか……。


 すると水溜りからある魔物が顔を出し近づいてきた。


「魔王様?」


 見た目は顔が魚で体は魔王様と同じ人間だ。


 どうやら突然出てきた魔物に魔王様は驚いてどこへ行ってしまったのだろう。


「サハギン!」


 水溜りから出てきたのは魚人間とも言われているサハギンだった。


「あの人は魔王なのか?」


「魔王様なの!」

 

 ゴブリンのおかげで私達は魔王様と呼んでいる。


 ただ、当の本人は魔王様と呼ばれるのは気に入ってないが仕方ない。


 名前を知らないから魔王様が名前なのだ。


「魔王が復活したのか……。それにしても驚いてどこかに行ってしまったな」


 サハギンは魔王様が逃げた方を見て笑っていた。


「魔王様は臆病だからな。それにしてもサハギン殿が驚かせようと出てきたのがダメだ」


 サハギンはコボルトに詰め寄られると怒られていた。


 確かに魔王様は臆病だから、今回もコボルト達がたくさんついてきていた。


 そう言っているコボルト達も嬉しそうに尻尾を振っていたから、やはり魔王様は魔物の気持ちを理解している。


「ひゃはは、俺たちの性格を知っているだろ?」


 そういえばサハギンは驚かせるのが好きな魔物だった。


 時折水溜りから出ては人間を驚かして楽しんでいるらしい。


「とりあえず魔王様を追いかけよう」


 私は水溜りを避けるように、魔王様が逃げて行った方に服を持って走った。


「サハギン殿も後で魔王様に謝るんだぞ」


 コボルトに散々怒られてサハギンは若干気まずそうにしていた。


「では!」


 そう言ってコボルト達も私に続き森の奥へ魔王様を探しに向かった。


 それにしても魔王様はどこまで走っていったのだろうか。


 その脚力があれば魔物からも逃げられるだろうに……。

 

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